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12月22日 意外な標的を狙った薬剤治験2題(12月9日  The New England Journal of Medicine 掲載論文)

2021年12月22日
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効果について研究は進んでいても、薬剤標的として利用するにはハードルが高いのではと思い込んでいる標的分子がある。この勝手な思い込みを打ち砕いてくれる治験論文を2編目にしたので、紹介する。

最初はマウントサイナイ医学校からの論文で、ダイオキシンと結合して毒性を発揮する芳香族炭化水素受容体(AhR)を刺激する自然リガンドtapinarofを難治性の乾癬の塗り薬として使う治験で12月9日号The New England Journal of Medicineに掲載されている。タイトルは「Phase 3 Trials of Tapinarof Cream for Plaque Psoriasis(局面型感染に対するTapinarofクリームの第三相治験)」だ。

我々世代にとってカネミ油事件は脳裏に焼き付いた事件の一つだろう。ライスオイル製造過程でダイオキシンの一種PCDFが混入し、2千人を超える被害者が出た。これは、ダイオキシンがAhRに強く結合した結果、様々な臓器で異常な遺伝子発現を誘導した結果と考えられる。このように、AhRは悪い印象があるが、ほとんど全ての組織で発現し、重要な機能を有している。

ダイオキシンの作用を媒介するためハードルは高かったのだが、実際にこの分子の機能を変化させて、造血や免疫を機能を調節する研究が行われてきた。私にとって最も印象深かったのは、ノバルティス研究所がAhRを介して臍帯血幹細胞を何百倍にも増幅することに成功した論文だった。

同じように免疫系でもAhRをうまく刺激すると炎症に関わるIL17分泌を抑制することが知られており、GSKは線虫と共存しているバクテリアからAhRの自然リガンドTapinarofを分離し、乾癬や湿疹への効果を調べていた。

この研究は、局面型乾癬についての最終的な第3相試験の結果で、塗り薬という性格と、長期間乾癬で苦しんできて薬剤をそれほど信用していないためか、ドロップアウトが多く苦労している様子がわかる治験だ。詳細を省いて結果だけを述べると、12週間の塗布を続けた人では、40%の患者さんで明確な改善が見られ、自覚症状も改善している。一方、毛根の炎症や接触性皮膚炎が副作用として広くみられており、問題は無いとしてもカネミオイル症を思い出した。

以上、自然リガンドを探し出して薬剤に仕上げたのには脱帽する。

もう一編はテキサス・メソジスト大学からの論文で、なんとメチルアルギニンというNO合成阻害でトリプルネガティブ乳ガンを治療する1/2相治験で12月15日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「A phase 1/2 clinical trial of the nitric oxide synthase inhibitor L-NMMA and taxane for treating chemoresistant triple-negative breast cancer(化学療法抵抗性のトリプルネガティブ乳ガンのNO合成阻害剤L-NMMAをもちいた1/2相治験)」だ。

このグループは、メチルアルギニン(L-NMMA)が、化学療法では殺せないガンの幹細胞を低下させることを明らかにしており、臨床応用を目指していた。ガンを含む様々な状況でNOが関わることはよくわかるが、血管調節機能への重要性から、L-NMMAのように全てのNO合成酵素を標的にするのは簡単ではないと私は思い込んでいた。

この研究でも、第1相試験で安全な投与量を探った後、比較的副作用の少ない投与量を探し出し、第2相ではL-NMMAと一般抗がん剤としてDocetaxelを併用、3週間を1サイクルとして、2-6サイクルまで治療を行っている。

詳細は全て省いて結果をまとめると、45%の患者さんでガンの進行を抑えることが出来、転移のない場合はなんと反応率は82%に上っている。さらに、転移がないばあいは、36%の人が完全寛解を誘導できており、かなり期待が持てる結果だ。

さらに血液検査で、ガンの増殖だけでなく、自然免疫システムもガンに対向する方向で変化していることを示している。

予想通り副作用も強いが、これはdocetaxelとの併用が原因で、L-NMMA自体は許容できるとしている。

予想以上の結果で、何でもトライすることの重要性を実感した。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:L-NMMAとDocetaxelを併用、3週間を1サイクル、2-6サイクルまで治療を行う。
    2:45%の患者さんでガンの進行を抑えることが出来、転移のない場合の反応率は82%である。
    3:転移がない場合は、36%の人が完全寛解を誘導可能であった。
    Imp:
    標的が複数あり“薬には不向き”と思われている分子も工夫次第で使えそうですね。
    NFκB、、、いけますでしょうか??

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