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1月23日 幼児は唾液で社会性を判断している(1月21日号 Science 掲載論文)

2022年1月23日
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虫歯菌に感染するからと、最近では幼児期に口移しで食べたり、キスをしたりすることは避けるよう勧められているようだ。一方で幼児期のスキンシップの重要性はわかっており、この狭間で悩む人も多いのかもしれない。しかし、虫歯菌の感染が問題なら、口腔ケアを念入りにすればいい話で、口移しも含めてスキンシップを制限する必要は、一部の例外を除いて無いと思う。それでなくともスキンシップが禁じられてしまうパンデミック時代、スキンシップ欠如の子供への影響の方が深刻に思える。

といってみたところで全てエビデンスのない個人的意見だが、今日紹介するハーバード大学心理学科からの論文は、1歳半ぐらいの幼児は唾液の交換を伴う行動を見て、社会性を判断していることを示した研究で、1月21日号のScienceに掲載されている。タイトルは「Early concepts of intimacy: Young humans use saliva sharing to infer close relationships(幼児期での親密性の概念:幼児期には唾液共有を人間同士の親密さを判断するのに使っている)」だ。

このような研究は、仮説とそれを証明するための課題の設計が全てだ。この研究の仮説は、他人の唾液が混じるのをいとわない行為は、人間同士の親密な関係を示すことだ。

まず、同じストローでジュースをシェアしている子供と、お菓子を分けて食べている男女の子供を見て、「2人は兄妹」と効くと、唾液が混じっても同じストローでジュースを飲んでいる子供の方がより兄妹である可能性が高いと感じることを、小児で確かめている。

ただこのセッティングを見ただけで、親密度を判断するためには経験が必要で、もっと若い1歳半の幼児で同じことを調べたい場合、新しい課題を設定する必要がある。この研究のハイライトは、幼児でもテスト可能ないくつかの課題を設計したことにつきる。

まず第一の課題だが、女性Aが人形と一つの食べ物をシェアしているビデオと、女性Bがボールを人形に渡しているビデオを見せた後(人形は同じ)、人形を挟んで両方の女性がいる状況で、人形が助けを求めたとき、幼児はどちらの女性を見るかという課題だ。

すなわち、自分が人形の立場になったことを想像して、まず助けを求めるのは関係が緊密な人になるが、これを判断するとき唾が混じるのを気にする関係かどうかを基準に出来ないか調べている。

結果は期待通りで、1歳半の幼児のみならず、8ヶ月令の乳児でも、唾液を共有していることを感知し、それを親密なサインとして理解している。

同じ問題を、一人の女性が食物やボールを使わず、直接指を自分の口から人形の口に運ぶ、あるいは自分の額から人形の額に運ぶというタスクを設定し、今度はこの女性が助けを求めたとき、どちらの人形を見るかという課題で確かめると、やはり唾液交換を伴う行動を、親密度の判断に使っていることが分かった。

他にも様々な確認実験を行っているが、人間はかなり早い段階から社会的親密度を判断でき、その基準として唾液共有が行える仲かどうかで判断しているという研究だ。いずれにせよ、唾液共有をいとわない関係を積極的に作らないと、子供に親密とは思ってもらえないことを示した面白い論文で、虫歯菌が感染するという心配を払拭することの重要性を意味していると思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    人間はかなり早い段階から社会的親密度を判断でき、その基準として唾液共有が行える仲かどうかで判断しているという研究だ。
    Imp:
    唾液共有で社会的親密度を判断していたとは。。。
    意外過ぎです。

  2. Michiko Kawakita より:

    犬を飼っていると、子供がいた(できた)場合、もちろんグッとこの親密度は上がりますし、精神的な成長に良いと言われていて、報告もあったような気がします。
    ヨーロッパ家庭犬は分けて飼うのではなく、同じ家の中に同居している方が普通です。もちろん新しいメンバーが入った場合、それが犬でも人間でも、よく注意観察しろとは言われてますが。
    一方で、アメリカや日本では「犬を分ける」ことが感染を理由によく推奨されているようです。

    口移しで食べ物を与えるのは、私の親もやったことないと言っていたし、こちらの周りでも見たことはありませんが、日本と比べて大人と一緒に行動する時間は長いし、キスはよくしてるし、スキンシップは強いですね。
    犬も子供も。
    別にわざわざご飯を口移しで与える必要もないのではないでしょうか?
    私は歯周病の方が厄介で嫌ですけれど・・・老化促進の強い因子の一つで。
    歯周病を歯のケア以外、例えば薬で除去できるなら別ですけれど。

    歯医者は日本は行きやすく値段も大したことないですが、欧米では別料金体制で高く、定期的に通ってる人なんて金持ちか特別な人だけだと思います。フランスはマシな方ですが、それでも歯の点検を年に1度しているというのは周りでも聞いたことありません。

    1. nishikawa より:

      情報参考になります。

  3. Michiko Kawakita より:

    すみません。話がこんがらがって。
    家族に犬か猫が加われば、簡単に効率よくこの社会性が向上すると思っただけです。

    1. nishikawa より:

      川喜田さん、連想ゲームは科学にとって大事です。

  4. michiko kawakita より:

    すみません。
    犬や猫が家族にいれば、簡単に社会的親密度が上がると思っただけです。
    でも、日本では犬猫も排除傾向にあって、同じようにはいかないなと思いはじめて、話がどんどんそれました。

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