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4月8日 胎児発生時の代謝変化(4月6日 Nature オンライン掲載論文)

2022年4月8日
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出生時もそうだが、胎児発生途中のエネルギー代謝も、それぞれの時期で大きな変化が予想される。最初は母親からの分子拡散により栄養や酸素が供給されるが、その後胎盤機能が成熟し、同時に血管が出来、血液が循環し始める。しかしこの胎児の代謝変化を、直接的代謝研究として調べた論文は少ない。代わりに、遺伝子発現の経時的変化から、代謝変化を予測するというスタイルが主流になっていた。

今日紹介するテキサス大学からの論文は、マウス発生過程でブドウ糖代謝、グルタミン代謝を調べるとともに、様々な代謝物の変化を追跡した研究で、ともかく調べただけとも言えるが、必要なことをしっかり調べる研究も重要だ。タイトルは「Compartmentalized metabolism supports midgestation mammalian development(コンパートメント化した代謝が胎生中期の哺乳動物発生に必須)」で、4月6日Natureにオンライン掲載された。

代謝研究領域はあまり詳しくないのだが、調べてみると著者らは、ミトコンドリア内のTCAサイクルへの分子供給経路を活性化するスイッチ分子lipolyltransferase-1(LIPT1)とその変異を持つ患者さんについて研究をしているグループで、基本的には変異を持つ患者さんの症状を理解するためにこの研究を進めたのだと推察する。

まずマウス発生過程、特に赤血球の循環が始まる胎生10日目から3日間の胎児と胎盤で162種類の代謝物を比べ、

1)胎盤と胎児は全く異なる変化を示す。

2)どちらの組織でも胎生10.5日を境に、代謝物の大きな変化が起こる。

3)変化のうち、プリン・ピリミジン代謝変化が最も大きいが、中でも胎児でのプリン代謝の変化が著しい。

ことを明らかにしている。

そして、最も重要な実験だが、TCAサイクルに代謝物を供給する2本の流れ、グルコースとグルタミンの代謝を、アイソトープ標識したグルコース、グルタミンを用いて調べている。結局は臓器ごとに違いがあり、一言でまとめるのは難しいのだが、想像通り赤血球の循環が始まることで、ミトコンドリアの機能とTCAサイクルの活動が高まって行くのが観察できている。

これを確認する一つの方法として、このシフトが起こる時期のLipt1変異の影響を見ている。予想通りとは言え、ノックアウトするとこのスイッチが起こる時期に胎児は死亡する。しかし、生存可能な突然変異(44番目のアミノ酸の変異)を導入したマウスで調べると、代謝レベルでTCAサイクルへの分子供給が細る結果、胎盤ではほとんど変化が見られない一方、脳と心臓の発生が遅れ、赤血球産生が低下することを示している。

以上まとめると、発生の状態に応じた代謝のスイッチが行われ、発生でのエネルギー供給が賄われていることを示しているという結果で、全く予想通りだ。実際には臓器ごとに変化の仕方はまちまちなので、代謝だけで全ての指令が出るとは思えないが、この研究で集められたデータは重要だと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    発生の状態に応じた代謝のスウィッチが行われ、発生でのエネルギー供給がまかなわれていることを示しているという結果だ。
    Imp:
    発生過程で代謝スイッチの切り替えも行われる

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