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10月17日 侵害受容体と腸内細菌叢:唐辛子は腸を守る?(10月14日 Cell オンライン掲載論文)

2022年10月17日
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腸内には唐辛子成分カプサイシンを感知する TRPV1 を発現する神経端末が存在するが、その機能については明らかでないことが多い。当然、腸内の TRPV1 機能を阻害したときに何が起こるか調べようとするのは当然だ。実際、10月14日 Cell に同じ目的の論文が1編はハーバードから、もう1編はコーネル大学から発表された。

両方読んでみたが、同じ方向の研究なのにこれほど結果が違うのかと驚いた。研究としては、ハーバードからの最初の論文の方が質が高いことは間違いないが、実験とその解釈がいかに難しいかを知る意味でも、是非読み比べて欲しいと思う。

まずハーバードの論文からまとめる。

  1. TRPV1 発現細胞は神経性痛みに関わるナトリウムチャンネル Nav1.8 を発現しているが、Nav1.8 を指標にして腸管での神経支配を調べると、粘液を分泌するゴブレット細胞近くに端末があり、この神経刺激により粘液の分泌が高まる。
  2. Nav1.8 神経細胞はニューロペプチド CGRP を発現しており、一方ゴブレット細胞はその受容体Ramp1 を発現し、この刺激により粘液を分泌し、腸粘膜を保護する。TRPV1 を刺激する唐辛子成分を食べさせると、粘液が分泌されることから、TRPV1 刺激により CGRP 分泌が誘導される。(唐辛子は腸の保護には良さそうだ。!!!)。
  3. TRPV1 が欠損すると、粘液保護が低下し、その結果 Turicibacter, Allobaculum などの菌種が拡大する。また、粘膜の方も、ストレスが高まることが転写解析からわかる。
  4. この神経が欠損すると、硫酸デキストランで誘導される腸炎が悪化するが、これを CGRP 投与で治療できる。

以上、TRPV1 による粘液分泌の調節が、腸の細菌叢維持と健康に重要であるという結果だ。また唐辛子の効果も期待できる結果だ。

一方コーネル大学の論文は、TRPV1 をノックアウトしたり、あるいは刺激、刺激抑制を行い、最初から TRPV1 の硫酸デキストラン誘導腸炎への関与を調べている。まとめると以下のようになる。

  1. TRPV1 刺激を止めたり、TRPV1 細胞を腸管から除去すると、硫酸デキストランにより誘導される腸炎が悪化する。この原因を探っていくと、腸内細菌叢が変化が特定され、実際 TRPV1 が存在しない腸の細菌叢を移植することで、腸炎が悪化する。
  2. この腸内で変化するとして注目されている細菌種はハーバードの論文とは全く異なる。ただ、抗生物質感受性や無菌マウスへの移植実験を介して、腸炎悪化に関わるバクテリアは Clostridium であると特定している。
  3. TRPV1 刺激により神経ペプチド CGRP とともに Substance P が分泌されるが、SubstanceP のほうが腸内細菌叢の変化に関わる。事実、Substance P を投与すると、硫酸デキストラン誘導の腸炎を抑えることが出来る。また、人間の炎症性腸疾患でも Substance P の発現が変化している。

結果は以上で、同じような論文が並んで掲載されることは多いが、通常は大体同じような結果の場合が多い。しかし今回は同じ研究でもここまで結論が違うかと思うと、実験を安定させることがいかに難しいかわかる。ただ、整理整頓、論理性から見るとハーバードの方に軍配が上がる。

  1. okazaki yoshihisa より:

    今回は同じ研究でもここまで結論が違うかと思うと、実験を安定させることがいかに難しいかわかる。
    imp.
    研究の題材以上に、実験結果の違いが発生する点が面白いです。
    今日の正解は明日の不正解!
    生命科学が抱える悩ましい点!

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