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7月30日:核酸代謝をガン治療の標的に(Natureオンライン版掲載論文)

2015年7月30日
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今書いている本で生命の始まる前の化学について考察する必要があり、有機物の代謝を勉強中だが、学生時代から代謝、特に代謝マップを見るのは苦手だった。基本的な代謝経路を含め、今でもほとんど頭に入っていないため、代謝経路に関わる論文を読むときはどうしても苦労する。それでも、医学部に入って最初のころ早石先生が核酸代謝とその異常について講義していたのを不思議と覚えている。今日紹介する英国オックスフォード大学からの論文はその核酸代謝の話だが、代謝嫌いの私が面白く読むことができた研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「CDA directs metabolism of epigenetic nucleosides revealing a therapeutic window in cancer(シチジンデアミネースはエピジェネティックな修飾を受けた核酸代謝を調節し、ガン治療の一つの可能性を示す)」だ。この研究は素朴な疑問から発している。私たちの核酸、特にシチジンはメチル基やハイドロオキシメチル基で修飾されることで、遺伝子発現の調節に一役買っている。核酸は分解された後再利用されることがわかっているが、もし修飾された核酸がそのまま複製時に取り込まれたら、エピジェネティックな標識が乱れてしまうはずで、それを抑制する機構が必要となる。この研究はこの機構の解明を目指して行われ、代謝研究のテクニックを使って、修飾を受けたシチジンが分解され、その後2番目のリン酸を付加されるときに働く酵素がメチル化シチジンやハイドロオキシメチルシチジンには働けないことを突き止めた。この過程が壁になって、修飾されたシチジンがゲノムにとりこまれることが防がれている。実際の細胞でも、この防御が働いているかを調べる目的で細胞を高い濃度の修飾したシチジンと培養した所、ほとんどの細胞は期待通り正常に増殖した。すなわち修飾シチジンはとりこまないよう防御が働いていたが、幾つかのがん細胞で細胞死が認められるのに気がついた。なぜ防御が敗れたかを調べた結果、これらのガンではシチジンデアミネースという酵素の発現が上昇しており、これがシチジンのアミノ基を外して、メチル化シチジンをウリジンに、ハイドロオキシメチルシチジンをハイドロオキシメチルウリジンに転換してそのままゲノムにとりこませていることに気がついた。ウリジンは問題ないが、ハイドロオキシメチルウリジンはとりこまれると遺伝子が切断される。すなわち、デアミネースの上昇で他の核酸リサイクル経路が働いてしまって、本来存在していた防御が崩壊していることになる。様々な腫瘍でこのデアミネースが上昇していることがわかっているので、この現象を逆手にとって、デアミネースの高いガンを修飾シチジンで殺せるか調べると、正常組織には影響なく、ガンが縮小する。したがって、ガンのシチジンでアミナーゼの発現量は治療計画に結構重要な検査項目としてもっと注目すべきだという結論だ。質問も素朴で、最後も十分納得できる面白い代謝研究だった。
  1. 中原 武志 より:

    いつもお世話になります。

    このような地道な研究が世界各地で行われ、いつの日か、
    それらが見事に結実することを願っています。

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