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8月6日:広島被曝の日に福島を考える(8月1日号The Lancetの特集記事)

2015年8月6日
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今年も8月6日は暑い日になりそうだ。原爆投下について答えられない児童が増えたというが、2014年で約20万人の広島、長崎で被曝した方が生きて暮らしておられる。この方々の声を日本中の子供達に聞かせる工夫をするのが教育だろう。そこに2011年の福島だ。これを後の世代に正確に伝えていく工夫が必要だが、その基礎となるのが科学的研究だ。8月号のThe Lancetでは、広島・長崎・そして福島第一という特集を組んで、4編の総説を掲載している。最初の総説は、広島大学を中心として、広島、長崎の被爆者の方々のコホート研究がどのように行われ、何がわかったのかがまとめられている。被曝時の状況の聞き取りから被曝線量が推定されているコホートはこの研究しかないし、また最後であって欲しい。実際のコホートがスタートしたのが5年後の1950年と遅れているのは戦後の混乱のせいだと思うが、被爆者を援護する法律ができたのがようやく1957年であったのを再認識すると、GHQも政府も取り組みが遅かったかわかる。もちろん白血病を中心に被曝により発がんリスクが高まることは明確だが、一方被爆者の子供達は統計的に親の被爆の影響が見られないことは重要な結果だ。今福島の若い女性は差別を恐れて生まれを隠す人がいると聞くが、是非被爆2世の結果をもう一度再認識して欲しい。被爆後70年にわたって蓄積されたデータや資料についてもっと多くの利用と周知が進むことを期待する。次の総説は福島第一を中心に原子炉事故についての総説で、福島大学を中心に多くの施設が参加して書いている。しかし、大きな事故としてスリーマイル島から福島まで、3回も起こっていることはもう一度認識すべきだ。安全という数字ではない。過去の経験から原発が安全でないと知った時、さらに科学を盾に安全性を訴えるのか、やめるのか、政府だけで決められる問題ではない。被爆については、福島原発で働く人たちと、原発に近接した地域の住民と分けて書かれている。原発労働者については確かに被爆の管理は一部を除いてしっかり行われている。しかし、前にも書いたが長期追跡が重要で、特に普通の原発維持とは違う状況の中で働いた人を一人残らず追跡するための体制を確立することは急務だ。許容範囲とはいえ、間違いなく通常より高い被爆を受けている。福島医大を中心にしっかりと追跡が行われているという印象を持ったが、もっと支援が必要だろう。東北メガバンクを始め最初からゲノム解読を全員にやるなどと金を使うことしか考えない土建屋型プロジェクトが多いが、一番重要なのは被爆した人に寄り添いながら行う、正確な把握と追跡で、ゲノムなどコストが安くなってからやれば済む。実際シークエンスコストがどんどん下がっている時に、シークエンスが先にあるなど考えるようでは、結局壮大な無駄と借金が残るのではと懸念する。この総説で特に指摘されているのが、被爆より、被爆後、その後の生活のストレスからくる精神的障害で、これはチェルノビリも同じようだ。3番目の総説は、これらの分析を基礎に、原発労働者や住民の保護などに具体的提言を多く行っているので、是非行政の人には一読を進めたい。そして最後、福島医大の後藤さんとハーバードパブリックヘルスのライヒさんが、この特集のまとめとして、長期的取り組みの必要性を説いている。最後に彼らの3つの提言を聞いて、今日の報道ウォッチを終わる。 1) 地域ぐるみの取り組みができるシステムを確立すること。地域を孤立させない政策が必要だ。価値を共有して、福島で壊れた絆を取り戻す。 2) 被爆者の追跡を独立して行うのではなく、地域医療システムの中に組み込むこと。(メガバンクといった土建事業などもってのほかだ?)。コホートはデータの追跡ではない。患者さんと向き合って、カウンセリングを含めて追跡を進めることがあるべき姿だ。 3) 政府の取り組みが実を結んでいるのか、独立に評価することが重要。(本当に必要なところにお金が行っているのか、仕分けが必要だろう) カッコ内は私の感想。 最後に、この4編の総説に引用された論文は今後の科学記録として重要だ。書いた著者たちに感謝したい。しかしイギリスの雑誌がこのような特集をしている時、日本の医学誌は何を特集しているのか興味がある。
  1. 浅川茂樹 より:

    ご紹介くださり、ありがとうございます。
    原文、これから読みます。

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