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12月1日:1型糖尿病に対する抑制性T細胞(Treg)移植(11月25日号Science Translational Medicine掲載論文)

2015年12月1日
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1型糖尿病は膵島移植の対象で、変性性の病気だと思っている人が多いと思う。確かにインシュリンを分泌する膵臓β細胞が徐々に失われるが、これを引き起こしているのはT細胞による炎症で、自己免疫疾患がその本体だ。したがって、初期の段階では自己免疫反応をなんとか抑えて病気の発症を抑えられないかという試みが続いており、例えば抗CD3抗体治療など臨床治験が進んでいる治療もある。中でも期待されているのが、我が国の坂口さんが発見し抑制性T細胞(Treg)を移植して、免疫を抑える方法で、癌で行われているチェックポイント治療の逆をいく治療だ。今日紹介するサンフランシスコ糖尿病研究センターからの論文は、26人の1型糖尿病患者さんからTregを取り出し、試験管内で増やした後、患者さんに戻す治療法の第1相治験で11月25日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Type1 diabetes immuneotherapy using polyclonal regulatory T cells(多クローンのTregを用いた1型糖尿病の免疫治療)」だ。このグループが開発したTregを精製する方法がこの研究の鍵で、この方法により、Tregだけを試験管内で増やすことができるようになっていた。この方法を使って26人の初期患者さんからTregを調整、試験管内で増殖させた後、異なる細胞数を投与したのがこの研究で、第1相治験なので、目的はこの方法で調整したTregの安全性を確かめる研究だ。Tregは抗原特異的細胞で、本来ならβ細胞をアタックするT細胞だけを特異的に抑える細胞を取り出したいところだが、難しいのでこの研究ではTregの量を増やすという戦略をとって調べている。2年以上の経過観察で有害事象は何もなかったので、Tregを安全に選択的に増殖させ、移植もできることを確認する第1相試験としては成功している。もちろん2年も追跡するのだから、安全性以外にも幾つかの項目を調べている。まず、水素同位元素を用いたTreg標識で移植した細胞の持続性を調べているが、多くの患者さんで2年以上にわたって持続することが分かった。そして、少ない細胞数を投与された患者さんでは、インシュリンの分泌を表す血中Cペプチドの低下を抑えることができている。この結果より、Tregを試験管内で増殖させ投与するという方法は安全で、今後患者さんのステージ、投与細胞数、投与回数などをさらに調節することで、治療効果が見られるようになるのではと結論している。データをみると、目覚しい効果というわけにはいかないし、患者さんもインシュリンを手放せない。しかし、長く待たれていたTregを使った治療の第一歩としては上々の滑り出しではないかと個人的には思っている。
  1. ゆいるり より:

    先日、7歳の1型糖尿病の男児が亡くなる事件がありましたね。早く治療法が確立されて、このような痛ましい事件が起こらない事を望みます。

    1. nishikawa より:

      私はだまされたご両親を責めるより、思いつきで人の心をつかむ人たちを許すわけにはいきません。

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