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12月21日:マウス胚を用いたヒトiPSの全能性検査(1月7日号Cell Stem Cell掲載論文)

2015年12月21日
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一昨年まで、ケンブリッジにあるAustin Smith所長のケンブリッジ幹細胞研究所のアドバイザリーボードのメンバーだった。ともにケンブリッジにあった、ウェルカムトラストの研究所とMRCの研究所が統合してできた研究所で、研究目的が幹細胞や再生医学と似ているなら、違う組織に属している研究所も一体化できる英国の合理性に感心した。この一体化で、ケンブリッジの研究所は基礎から臨床まで切れ目ない優れた研究所に発展した。統合前のMRCに属する研究所の所長がRoger Pendersenで、英国の伝統的マウス胚発生学の豊富な知識の上に多能性幹細胞の研究を行ってきた。今日紹介する論文は彼の研究室からの論文で、著者は彼とポスドク(おそらく)の2名だけというのも英国の伝統的発生学を思い起こさせる。タイトルは「Human-mouse chimerism validates human stem cell pluripotency(ヒト〜マウスキメラ作成によりヒトの幹細胞の多能性が評価できる)」だ。   現在ヒトESやiPSが多能性を持つことを確かめるためには、試験管内で細胞分化を誘導し、外胚葉、中胚葉、内胚葉系の細胞が出現するか、あるいはマウス体内に注射してテラトーマを作らせるしかなかった。代わりにマウス胚に直接注射して分化能を確かめることも行われているが、寄与率は低く、移植したヒト細胞は当然ホストのマウス細胞に置き換えられてしまう。ただ、胞胚期に移植する方法がうまくいかないもう一つの原因は、ほとんどのヒト多能性幹細胞がエピブラスト段階にあるためで、移植する胚を中胚葉誘導期まで進んだ胚にしてみたらどうかと着想した始まったのがこの研究だ。この目的で得意中の得意であるマウスの全胚培養を使い、原腸胚にES/iPSを移植した後、胚を2−3日培養して、移植した細胞の分布を調べている。詳細は省くが、移植した細胞はマウス胚の中を移動し、3胚葉に分化できること、移植場所やステージによって移動する場所が異なること、分化マーカーの発現と、分布場所が完全に対応しており、マウス細胞と同じようにマウス胚内で振舞うことなどを示している。要するに、分化段階を揃えた移植を行えば、ヒトの細胞でも短期間はマウス胚内を決められたパターンに従って分化していくことを明らかにした。おそらく後期になると、増殖因子のミスマッチなどでヒト細胞は消えていくと考えられるが、マウス胚培養期間ならそれもほとんど問題にならない。英国発生学の長い伝統と、やはり英国の幹細胞研究の伝統が融合したいい仕事だと思う。今後、より分化した細胞を移植する研究も進むだろう。一方、この方法が多能性の評価のスタンダードになると、ヒト全胚培養が新たに流行するかもしれない。おそらくRogerも自分の投げた石がどれほど大きな波になるか見守っているだろう。
  1. 大隅典子 より:

    こんな研究が! 読んでみます!!!

    1. nishikawa より:

      習いに来るヒトが多くなりそうですね。

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