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7月14日:休日の救急医療(7月9日The Lancet掲載論文)

2016年7月14日
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   2日目の話題は救急医療体制だ。    我が国の場合、救急医療体制の構築は、それぞれの自治体が計画を策定し、主に開業医が輪番で行う初期救急、入院治療が可能な2次救急、そして高度な救急医療に対応する救命救急センターなどの3次救急のように階層性を設けて対応している。しかしどの自治体も、1年中休みなく、24時間体制で患者を受け入れることができる病院をどう確保するかは常に問題だ。また、計画はできても、それがうまく機能できるのかも問題だ。これまで救急患者のたらい回しなど、様々な問題が指摘されてきたはずだが、ネット検索で調べる限り、計画が機能しているかどうか、病院の体制に立ち入って大規模に検証した調査を見つけることはできなかった。
   今日紹介する英国バーミンガム大学からの論文は、救急体制の検証を行う一つの試みで、臨床では最も権威のあるThe Lancet7月9日号に掲載された。タイトルは「Weekend specialist intensity and admission mortality in acute hospital trusts in England: a cross-sectional study(イングランドの救急病院組合での週末での専門家の数と入院後の死亡率:病院横断的調査)」だ。
   英国は一般医制度など、完全自由診療を制限して医療費増大を抑える代わりに、医療の完全無料化、患者登録による予防医療の充実など最新の医療をどう平等に提供するかを模索している。この医療行政のもう一つの柱が、重点配置された専門家による救急医療体制の構築だ。この構想は一定の評価を得ているが、週末には患者死亡率が上昇することが指摘されて、専門の医師の配置などまだまだ解決すべき問題があると指摘されてきた。
   この指摘にエビデンスを示して答えるべく、週末に専門家は救急病院に配置されているかの一点に絞って、イングランドの115の救急指定病院、15000人の医師について調査したのがこの研究で、焦点が明確で、行政にもすぐ反映されるいい研究だと思う。
   調査は、2014年6月15日日曜日と、18日水曜日の朝8時から夜8時までの12時間の救急対応で専門家がどのように配置されていたかを、主に聞き取り調査で行うとともに、その時入院した患者の死亡率を比較している。
   結果だが、予想通り日曜日の専門家の配置は全医師の11%で、水曜日の42%と比べると極端に低い。その代わりに、一人の専門家が日曜日は1.7倍過重な労働を行って穴埋めをしているが、それでも患者あたりの専門家の参加は平日の40%程度で止まっている。
   一方、患者の死亡率を調べると日曜日はやはり高い。ただ、この死亡率が専門家の配置によるのかどうか詳しく調べると、明確な関連は見つからない。従って、専門家の配置だけでなく、病院全体の機能がどうしても日曜日は低下すると考えたほうが良いという結果だ。
   この結果を受けて、鉄道などの交通機関と同じで、365日全く同じように機能する病院体制を作るのか、ほとんどの市民のサイクルに合わせた病院を作るのか、これは行政の問題だ。しかし、一般の方にはほとんど知られていないが、医学雑誌を見ると、医師が過重な労働のために燃え尽き症候群に陥る問題についての論文が散見される。したがって、この問題を医師にだけ押し付けるのは間違っていると思う。
   いずれにせよ、焦点を絞ってこのような調査が行われ、多くの病院がそれに協力するのを見ると、あまり根拠のない専門家の意見にだけ頼って医療行政が決まっていく我が国はまだまだ後進国から抜け出せていないと思う。
  1. 橋爪良信 より:

    わが国の医師は、不足しているのか、ある疾患領域に偏っているのか、、、事情はさておき
    石原都知事が、都立大学にメディカルスクール制度を導入し米国の制度に倣った医師を養成するアイデアを語ったことがありました。
    高い使命感をもって手を挙げたいと思う方が、潜在的に多いのではないかと思いました。私もその一人です。

    1. nishikawa より:

      アメリカのメディカルスクールは選考に時間をかけて言い人材をとっています。
      それでもバーンアウトする医師が増え、今各国は頭を悩ませています。

    2. nishikawa より:

      医療を守るとすると、税も含めた大きな計画が必要です。税を取らずに、日本の会社なら保険収載を無制限にするような政策では、救急にまで手が回らないと思います。

  2. 橋爪良信 より:

    一長一短なのですね

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