4月4日:遺伝子解析から小児の神経疾患をどこまで診断できるのか(3月29日号Nature掲載論文)
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4月4日:遺伝子解析から小児の神経疾患をどこまで診断できるのか(3月29日号Nature掲載論文)

2018年4月4日
小児の神経は可塑性に富んでいる。ということは、早期に診断できれば、発達段階で何らかの介入が可能になる。現在Fragile X, Rett症候群, MECP2重複症など、遺伝性が明らかな疾患については、生まれてすぐに診断して必要に応じて遺伝子治療などを行う可能性が出てきている。このため、神経細胞を標的にした遺伝子治療に期待が集まっている。

しかしガンと同じで、小児の疾患の中には、例えば父親の精子形成時に起こった新たな突然変異が病気の原因になっているケースも多い。発生過程でこのような遺伝子変異が影響してしまうと、心臓や脳の発達異常が起こってしまう。ただ、この場合も、子供で新しい遺伝子変異が生まれていることは確認できることから、どの遺伝子に異常があるのか、早期に診断できる可能性がある。このことを最も強く示したのが、昨年英国のサンガーセンターを中心発表された小児の診断がつかない神経疾患についてのエクソーム解析で、このような症例の42%は、新たな突然変異が原因である可能性を示していた(Nature 542:433,2017)。

しかしそれでも6割は原因不明のまま残る。これをなんとか遺伝子で診断できるようにできないか努力したのが今日紹介する、同じサンガーセンターからの論文で3月29日号のNatureに掲載された。タイトルは「De novo mutations in regulatory elements in neurodevelopmental disorders(神経発達障害での遺伝子調節領域の新しい突然変異の寄与)」だ。

この研究もDDDとよばれている発達障害の子供のコホートを対象にした研究で、今回はエクソーム(タンパク質に翻訳される領域)ではなく、遺伝子発現を調節している領域に絞って、新たな突然変異(De Novo Mutation)が起こっていないか調べている。このためには当然全ゲノム解析が望ましいが、4000人にもなる患者さんの全ゲノムのDNA配列を解読することはできるだろうが、そのデータを解析するのは至難の技だ。この研究では、代わりに進化的に保存された、すなわち神経発生に機能していると考えられる非翻訳領域(CNE)に絞って解析している。この時心臓の発生に関わることがわかっているCNEも同時に調べ、神経発生異常に特徴的な突然変異を探索している。

それでもデータは膨大で、結果はデータを統計学的、推計学的処理を行ったグラフや表で示され、その内容について私も正確な判断ができるわけではない。このため、詳細は省いて結論だけをまとめておく。

1)まず間違いなく、遺伝子発現調節領域や、スプライシングに関わる領域に生じた新たな(de novo)突然変異と関連づけられる発達異常は存在する。
2)ただ、推計学的に因果性が示唆されても、個々の変異により障害が誘導されるメカニズムを特定することは、まだまだ時間がかかる。
3)今回の研究で新たな変異として6000近くの変異が発見されているが、統計学的には、このうち良くて5%が病気の発症に関わっていると推定されるだけで、おそらく調節領域に起こった新たな変異のほとんどは発達異常を誘導している可能性は少ない。
一言で行ってしまうと、これまで研究が進んでいる遺伝子調節領域やスプライシング領域のみ対象にしても、遺伝子による原因不明の病気の診断率は期待したほど上がると期待できないという、ちょっと拍子抜けの結論だ(もちろんこれがわかることは極めて重要で、この論文の重要性は変わらない)。

原因として、多くの障害は結局エピジェネティックな過程によるのかもしれない。ただ、遺伝子発現調節について、進化的に保存されている場所はそれほど多くないことも考えられる。従って、情報処理力を上昇させて、全ゲノム解析を行うことが次のステップになるだろう。親からの遺伝性のない発達障害を、エピジェネティックとして片付けないで、どこまで「ゲノムによる診断率をあげられるのか、著者らの執念が感じられる研究だった。
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