4月3日:脳梗塞の緊急診断デバイス(Journal of Neuro-interventional Surgeryオンライン版掲載論文)
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4月3日:脳梗塞の緊急診断デバイス(Journal of Neuro-interventional Surgeryオンライン版掲載論文)

2018年4月3日
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ガンや変性疾患などと違って報道される機会は多くないが、心臓や脳の血管が詰まる卒中に対する治療は急速に進展してきている。実際、早く病院に搬送されて血栓溶解のためのtPA治療を受けた友人は、本当に卒中が起こったのと思わせるくらい完全回復している。このような治療は発作後治療が始まるまでの時間との戦いになる。TPA治療の場合は5時間が目安といえる。これに加えて、血栓を溶かすのではなく、カテーテルで掻き出す血管内治療も行われ、目覚ましい成績を上げている。特に血栓が大きい場合はその効果は絶大だ。ただこの治療法の場合は、設備が整い、熟練の医師がいる施設が必要だ。従って、卒中と診断された後、救急車内で血栓除去を行う程度か、tPA治療でいいかを判断する必要がある。もちろん血栓除去術でも時間との戦いで、快復率は1時間かかるごとに20%低下する。

同じ課題は心筋梗塞でも見られるが、この場合心電図という強い味方があり、救急車内で適切な診断が可能になっている。ところが、脳卒中になるとその程度を診断する方法は、幾つかの症状や兆候を組み合わせた診断基準によるしかなく、血栓除去術の適応かどうかを決めるためのトリアージの精度はどうしても低かった。特に、必要ないのに必要と診断する率が3割以上(米国の話)で、これでは熟練の医師も体がいくつあっても足らない。

今日紹介する米国マウントサイナイ病院からの論文は卒中の程度をラジオ波を用いて診断するデバイスの検証論文でJournal of Neuro-interventional surgeryにオンライン出版された。タイトルは「The VITAL study and overall pooled analysis with the VIPS non-invasive stroke detection device(非侵襲的卒中検出デバイス(VIPS)のVITAL プロジェクト研究)」だ。

この研究では、約250名の卒中の患者さんに、通常のトリアージと診断を行うとともに、VIPSと呼ばれる頭に装着して卒中の程度を診断するデバイスによる診断と比較している。

このデバイスは、左右の後頭部から低いエネルギーの高周波を照射し、前にあるセンサーで受けるという比較的簡単な機器で、要するに超音波の代わりに頭蓋を通る高周波の電波を用いて、脳の状態を調べる機械だ。画像は全くでないが、卒中により血流が止まり、脳組織のインピーダンスが変化すると、その程度をほぼ瞬時に診断できる。また、経時的にも悪化していくスピードもわかる。幸い卒中が両側で起こることはほとんどないので、左右を比べることで程度の診断がしやすい。おそらく救急車に設置することはコスト面でも、技術面でもそう難しくないと思う。

結果だが、血栓除去術の対象者の診断率は93%で、救急車内での搬送先の診断に大きく貢献するという結論だ。救急医療としては大きな進展ではないだろうか。いつでも卒中に襲われる年齢の人間としては心強い。

もちろん、このトリアージの前提として、卒中に対する地域の救急体制の構築があるだろう。
カテゴリ:論文ウォッチ