4月21日 酒を飲むと喉が乾く理由(6月5日号発行予定Cell Metabolism掲載論文)
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4月21日 酒を飲むと喉が乾く理由(6月5日号発行予定Cell Metabolism掲載論文)

2018年4月21日
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今日から、2日お酒に関する科学の話をピックアップした。

いつの頃からか、ケトジェニックダイエットの宣伝や説明を目にする機会が多くなった。要するに、炭水化物が利用できないことを体に察知させ、脳に必要なエネルギー供給を脂肪にシフトし、いやでも脂肪が消費されるように体を仕向けるという話だが、もちろん副作用もある。特に、ケトアシドーシスになると多くの副作用を伴う。実際ケトン体だけでダイエットができるなら、酒を飲めばいいことになるが、ダイエットのためにはケトン体を作りながらアシドーシスを防ぐさじ加減が必要になる。ケトジェニックダイエットではこのさじ加減を教える必要があり、その方法は結構複雑だと思う。ただ、2016年7月に紹介したように英国オックスフォードとケンブリッジ大学の共同で、新しい脂肪酸、アシドーシスを起こさないケトン体が開発され、これを服用すると運動能力が2%上昇したことを示す論文が出て、ひょっとしたらケトジェニックダイエットも簡単になるのかもしれない(http://aasj.jp/news/watch/5567

) これまでの研究でケトジェニックダイエットの効果の一翼を担うのが、FGF21と呼ばれる肝臓から分泌される一種のホルモンである事がわかっている。最近の研究で、アルコールも強いFGF21の分泌刺激作用がある事がわかっている。今日紹介するダラスにあるサウスウェスタン大学からの論文はFGF21を介する新しい喉の渇きを誘導する経路を丹念に追跡した研究で、酒を飲むと喉が渇くメカニズムを理解させてくれる。6月に発行予定のCell Metabolismに掲載される予定で、タイトルは「The hormone FGF21 stimulates water drinking in response to ketogenic diet and alcohl(FGF21はケトジェニックダイエットやアルコールに反応して分泌され、水の摂取を刺激する)」だ。

昨日も友人たちと深酒をしたが、アルコールを飲むと確かに喉が乾く。この研究ではまず、FGF21を投与したマウスでは、行動的に渇きを感じ、その結果水の摂取が普通の3倍になることを示した上で、この渇きと水を飲む行為が、例えばバソプレシンやレニンなどの電解質や尿量を調節する経路とは全く異なることを様々な方法で示している(詳細は省く)。

次に正常の状態でFGF21が水の摂取と関わるか、遺伝子をノックアウトした動物を使って調べてみると、正常ではケトジェニック食を与えた時の水の摂取量がノックアウトマウスでは低下していることを明らかにしている。

また、アルコール摂取後1時間で、FGF21が上昇することを、マウスだけではなく人間のボランティアについても調べている。またアルコールを続けて飲ませると、水の消費が上昇するが、FGF21が欠損したマウスでは、水の消費は変化しない。このことから、FGF21がアルコールを飲んだ時の渇きの主役である事が分かる。一方、食塩の多い食事をとった時、あるいは水を24時間飲まなかった時に起こる水の消費の上昇は、FGF21が欠損しても変化はない。このことから、アルコールやケトン体で刺激されたときだけの渇きにFGF21が関わる事が明らかに成った。

以上の結果から、アルコールで肝臓が刺激されFGF21が分泌され、それが脳に働いて渇きを誘導し、水の消費が上昇する事がわかった。そこで最後に、FGF21が渇きを誘導する神経メカニズムを追求し、傍室核と呼ばれるホルモン分泌性の神経が集まった領域の、FGF21の受容体の一部を構成しているβKloth陽性細胞がFGF21の標的で、この細胞からアドレナリン受容体を介する自律神経回路を介して渇きや水の消費が上がる事がわかった。

これまで漠然と酒を飲んだ後の喉の渇きは、電解質や水の代謝の調節をしているホルモン系の作用かと考えていたが、全く新しい経路がある事がよく理解できた。

明日は酒を作るのに必須の酵母ゲノムについての論文を紹介する。
カテゴリ:論文ウォッチ