5月6日:CAR―Tを進化させる(5月31日号Cell掲載論文)
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5月6日:CAR―Tを進化させる(5月31日号Cell掲載論文)

2018年5月6日
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CD19に対する抗体の細胞外部分と、T細胞受容体の細胞内部分を合体させた遺伝子を自分のT細胞に導入して、CD19を細胞表面に出しているがん細胞を殺す治療(キメラ抗原受容体T細胞治療:CART)をこのブログで最初に紹介したのは、2014年10月だった(http://aasj.jp/news/watch/2309)。もう手の施しようがなくなっていたリンパ性白血病の患者さんの半数が完全寛解したことを読んで私も興奮し、がんに対する免疫システムの力を確信した。実際、昨年ノバルティスはこの時報告されたCAR-T療法の認可をFDAから受けた。さらに米国では他の2社もT細胞受容体部分を少しづつ変えたCAR-Tに参入する賑々しさだ。

しかし、CAR-Tもまだまだ改善の余地がある。まず、がん特異性をさらに高める必要がある。さらに、固形がんに対する有効性を高めないと、治療は一部のがんに限られる。そして、キラー活性を必要ならオフにしたい、などなどだ。すでにがんに対する免疫系の力は示されたため、今や多くの研究室でこの課題解決の様々な方法が試みられ、論文に発表されている。

今日紹介するボストン大学からの論文はこの研究分野で進んでいる開発競争の典型で、5月31日号のCellに掲載予定だ。タイトルは「Universal chimeric antigen receptors for multiplexed and logical control of T cell responses(T細胞反応の多用途で論理的な調節を可能にする普遍的CAR-T)」だ。

現在使われているCAR-TはT細胞を活性化させる細胞内領域が、ガン抗原に反応する細胞外の抗体部分と直接結合したキメラ受容体を発現しているため、シンプルだが一旦キラー活性が発揮されると制御は全く効かない。この点を改善するため、ガン抗原に対するキメラ抗体と、T細胞に導入するキメラ受容体を切り離し、ガン抗原を直接T細胞の標的にするのではなく、がんに結合するキメラ抗体上に別の標的分子をのせて、それをT細胞が特異的に認識する方法が様々な研究室で開発されていた。この方法だと、もしキラー活性を抑える必要が生まれた時、T細胞が認識する標的抗原を抗体から切り離して注射すると、T細胞活性を中和することができる。

今日紹介する論文も、基本はガン抗原認識と、キラー活性を切り離して、制御性を上昇させるというこれまでのアイデアの点では全く同じだ。ただこの研究では、ガン抗原を認識する抗体と、T細胞上の受容体に、転写因子同士が結合するときに使われるロイシンジッパーをカセットとして用いたアイデアが最大の売りになっている。細胞外での分子同士の反応には細胞外の分子を利用しようと思うのが普通だが、代わりにロイシンジッパーをカセットにする考えついた時点でこの研究は完成したと言える。これにより、ロイシンジッパーカセットが、細胞外の分子と反応する心配はなくなる。
これまでの報告を凌駕する制御性が獲得できるということが結論になっている。では何が具体的にできるのか、いかに列挙しておく。

1) 抗体部分の特異性や親和性を変えることで、同じロイシンジッパーを用いてもキラー活性や特異性を変えることができる、
2) ロイシンジッパーのコンビネーションを変化させ親和性を変えてもキラー活性を変化させられる。
3) ロイシンジッパーの親和性を落とした抗体部分を使うと、キラー活性を中和することができる。
4) がん細胞上の2つの抗原に対して同時に攻撃できる。
5) 異なるガン抗原の発現パターンを選んでがんを殺すことができる。
6) T細胞受容体と、T細胞の補助シグナルを同時に活性化でき、がん細胞周囲でのサイトカイン分泌を制御できる。
7) CD4,CD8細胞を同時に調節できる。

など様々な免疫機能の操作が可能なことを、マウスモデルで示している。もちろん、ここのアイデア自身はそれほど画期的とは言えないが、ロイシンジッパーに思い当たったこと、そしてそれを用いてあらゆる可能性に一度に対応できる方法に仕上げた力が評価されたのだと思う。同じ方法をうまく使って、おそらくT細胞の浸潤を操作したりできるようになると、固形がんへの応用も進むと思うが、治療にかかるコストが無限に上昇するのではと心配にもなった。
カテゴリ:論文ウォッチ