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自閉症の科学1:自閉症と小脳

2019年8月14日

多くの自閉症で小脳と大脳皮質の回路に変化が見られる

小脳と聞くと、運動の制御や学習にかかわる中枢だと思い込んでいることが多い、しかし小脳が障害された方の中に、言語や性格障害を示すケースが発見され、大脳皮質とネットワークを形成して運動以外の大脳の高次認識機構を支える重要な領域だと考えられるようになった。

その後MRIを用いた検査が普及すると、小脳の体積の増加、灰白質の減少などの小脳の変化が自閉症の人に高い頻度で見られることがわかり、自閉症諸症状に対する小脳、特に小脳皮質の関与が注目され始めた。これを裏付けるように、2012年Tsaiらが、小脳のプルキンエ細胞でTsc1遺伝子がノックアウトされたマウスでは(分子メカニズムの説明は省く)、プルキンエ細胞の代謝活性が上昇し、行動学的には社会性の低下や反復行動などの自閉症様症状が現れるという驚くべき論文を発表したことで、小脳は一躍自閉症研究の主役に躍り出た。

自閉症様症状への小脳皮質の関与を直接調べた研究が発表された

もちろんモデルマウスの結果がそのまま人間に当てはまるわけではない。これを示すためには、人間とマウスで同じ回路を操作して効果を比べる必要がある。もちろん、人間の脳に電極を刺すなどもってのほかで、切ったり刺したりすることなく、小脳皮質の操作や記録が必要だ。

Tsc1ノックアウトマウスの論文を出版してから5年、Tsaiのグループはこの課題にチャレンジし、ついに自閉症スペクトラムに対する小脳の関わりを、マウスと人で比べる実験を12月号のNature Neuroscienceに発表した(Stoodley et al, Altered cerebellar connectivity in autism and cerebellar medicated rescue of autism-related behaviors in mice(自閉症で見られる小脳の神経結合性の変化と、小脳を介するマウスの自閉症様治療)、Nature Neuroscience, 20:1744,2017)。

実験の概要

研究ではまず、正常人34人について右側の小脳皮質(CrusIと呼ばれる部位)と機能的に結合している脳領域を調べ、これまでの研究で自閉症との関わりが指摘されている神経ネットワークとの結合があることを確認している。この研究では、何もせずにボーとしている時に活動している大脳の領域、IPLに存在するdefault-mode-networkと呼ばれる回路との結合に特に焦点を当てている。

結合が確認されると、この結合性を操作できるかが次の問題だ。この研究では右側の小脳皮質を頭蓋の外に直接電流を流す方法(anodal tDCSと呼ばれている)で刺激し、小脳皮質とIPLの結合性が低下することを見出している。しかし、人間でできる実験はここまでだ。マウスを用いて、小脳皮質のニューロン(プルキンエ細胞:PN)を抑制してIPLの反応を調べ、マウスでも人間と同じように小脳とIPL回路に結合があることを確認している。そしてこの回路を遺伝子操作を用いて刺激・抑制する実験を行い、プルキンエ細胞がIPLを抑制的に支配していることを実験的に明らかにしている。

この結果に基づきプルキンエ細胞でTsc1をノックアウトした自閉症モデルマウスを調べなおすと、予想どおりプルキンエ細胞の活動が上がり小脳皮質とIPLの結合が上昇している。さらに、自閉症の患者さんのMRI検査でも小脳皮質とIPLの結合が上昇していることを確認し、この回路に関する限り、人間とマウスの自閉症がほとんど同じことを示している。

最後にもう一度マウスモデルに戻り、正常マウスのプルキンエ細胞を操作してIPLとの結合を高めると、自閉症症状が現れること、逆に自閉症モデルマウスでこの回路の結合性を低下させると、反復行動は正常化しないが、社会性は正常に戻ることを示している。

感想

結果をまとめると、右小脳皮質とIPLの結合性が高まり、IPLの活動が抑制されることが、少なくとも自閉症で見られる社会性の低下などの症状の原因であることが明らかになったと思う。個人的理解だが、社会的な行動に重要なIPLを抑える小脳からの抑制回路がなぜか発達してしまったのが自閉症の一つの原因で、この回路を抑えることで、IPLの活動を回復させられると解釈している。実際マウスを用いた実験で、この結合性を低下させることで自閉症症状を改善できることを示しているし、人間でもこの回路は、頭蓋の外側から電流を流すことで操作できることも示している。もちろん先は長いと思うが、将来右小脳皮質への電磁場照射による自閉症の治療が可能かもしれないと期待する。もちろん頭蓋の外からとはいえ、脳操作が必要になる。その時は、焦らず注意深い治験を計画してほしい。


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