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自閉症の科学15 睡眠障害についての調査

2019年8月25日
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今年6月、天才ディーラーと呼ばれたジェームス・シモンズとその妻マリリンが設立したシモンズ財団の助成を受けて進められている、目標5万人の自閉症の子供たちの追跡調査(コホート研究と呼ぶ)SPARKについて紹介した。ゲノムも含め、さまざまな項目について調べる意欲的なコホート研究だ。

これに先立ち、3000人の自閉症児を持つ家族についての様々なデータがSimons Simplex Collectionとしてデータベース化されている。この調査項目の中には、睡眠障害についての調査も含まれており、それもアンケートに記入させるのではなく、11の項目について、親に直接、あるいは電話でインタビューするという徹底的な調査だ。

このSimons Simplex Collectionに集められた睡眠障害についての調査をまとめたデータが、ピッツバーグ看護大学の研究者によりResearch in Autism Spectrum Disordersという雑誌に報告されたので、簡単に紹介しておく(Johansson et al, Characteristics of sleep in children with autism spectrum disorders from the Simons Simplex Collection (Simons Simplex Collectionに集められている自閉症スペクトラムの睡眠に関する問題)Research in Autism Spectrum Disorders 53:18, 2018)。

基本的には、4歳から18歳までの自閉症スペクトラム(ASD)児の両親に睡眠について聞いたインタビューのまとめだが、データとして2600人を超えるというのは、これまで調査された数をはるかに超えており、シモンズ財団のあつい支援の賜物だと言える。

質問の項目だが

夜間の問題(1、ベッドに行かせるのが難しいか?2、寝つきが悪いか?3、親の添い寝が必要か?4、夜中に何度も目を覚ますか?)

お昼の問題(1、寝起きが悪いか?2、うたた寝の長さや回数が多いか?3、昼間でもいつも眠たがる?4、十分寝ているか?)

睡眠時間の問題(1、就寝や起床時間が規則正しいか?2、睡眠時間は一定しているか?3、実際には1日何時間寝ているか?)

これまでの調査でも多くのASD児が睡眠障害を訴えていることが知られていたが、この大規模調査によって詳しい実態が見えてきた。

1)まず11項目のうちのどれか一つの症状があると答えた両親はなんと62%に達している。また、2項目以上が合併して、間違いなく睡眠障害があると診断できるのが41%に上っている。その結果、2-3割の子供が、学会が推奨している睡眠時間が確保できていない。

2)夜、昼を問わず、女性の方が睡眠障害を示す率が高い。

3)知能障害を持つ子供の方が、持たない場合より睡眠障害の率が高い。

4)若いほど睡眠障害が重い。すなわち、年齢に合わせた知能の発達により睡眠障害が抑えられる。

5)自閉症の症状が強い方が、睡眠障害が強い。

データはこれだけだが、睡眠障害が起こる原因の一つは、ASDでは消化管症状が多発するので、これが眠りを妨げている可能性がある。さらに、ASDの子供は、痛みの閾値が低いため、普通なら眠りを妨げることがない消化管の症状でも睡眠障害の原因になることも考えられる。従って、睡眠障害の治療としてまず考えるべき治療は、消化器症状があるかを診断して、この症状を改善させることだと言える。

その上で、難しくとも気長に規則正しい睡眠時間を取るよう指導することが重要になる。睡眠は、私たちの精神性や記憶に大きな影響がある。従って、なんとかASDの睡眠パターンを正常域に戻すことは、ASDの治療にもつながる可能性がある。そのためにも概日周期に関わる遺伝子も含め、このデータベースに集まる様々な検査データの相関を調べることが重要だと思う。その意味で、このデータベースの価値は計り知れない。

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