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自閉症の科学25 MRI画像研究からMRI検査へ

2019年8月25日

自閉症スペクトラム(ASD)のMRI研究は着実に進んでいる

これまでASDと診断された人たちの脳のMRI画像を、一般的な人と比べた研究については何度も紹介してきた。このような研究の基本には、なるべく早期に発見出来る客観的指標を探し、早期治療を可能にしたいという思いがある。さらに脳の成長に伴う変化を調べることで、ASDの脳回路のフレキシビリティーについても理解できる。このように、ASDのMRI画像は体を傷つけることなく得られるデータとしての重要性は高い。しかしASDがスペクトラム(広がりのある状態)として理解されているように、ASDの人たちの間でもMRI画像に現れる脳構造の変化は大きい。このため、一つのグループの研究結果がそのままコンセンサスとして認められると言うまでにはなかなか至らず、実際論文の間で結果が異なることはしばしばだった。このため、なんとかASD一般に認められるMRI画像の変化を特定し、研究から検査へと発展させようとする努力が続いている。

研究から検査へ

今日紹介するロッシュイノベーティブセンターを中心とするヨーロッパ各国が参加する研究チームの論文は、MRI検査について、専門家レベルでコンセンサスが得られるMRI画像変化を特定するko

とを目的に行われた研究で2月27日号のScience Translational Medicineに掲載されている(Holiga et al, Patients with autism spectrum disorders display reproducible functional connectivity alterations (ASDの患者さんでは再現性のある脳の機能的結合性の変化が認められる)Science Translational Medicine 11:eaat9223(2019):http://stm.sciencemag.org/content/11/481/eaat9223)。

繰り返すが、この研究の目的は何か新しい指標を発見するための研究というより、これまでの研究を見直してASDのMRI画像に関して皆が一致できる変化を特定することにある。これを実現するため、ヨーロッパで進んでいる2-300人規模でASDと一般人を追跡し続ける研究のうち、まず3追跡研究をASDに特異的なMRI変化を特定するための探索に用い、またこれらとは独立して進んでいる3種類の同じような追跡研究を、探索により特定された変化を確認・検証する目的で使っている。また、調べる画像も安静時の各領域の機能的結合性を調べる方法に固定して、変化を探索している。よく読んでみると、一種のAI研究と言っていいが、わざわざ流行りの言葉を使わないところは好感が持てる。

結果はもちろんこれまでの研究と大きな違いはない。ただ、多くの画像を解析することで、ASDを特徴付ける変化が確かに存在すること、そしてこうして発見された変化の大きさを、効果量(effect size)として定量化できることを示している。

今回特定された変化は以下のようにまとめることができる。

1)MRI検査から、ASDの多くの人で、機能的結合が亢進している領域と、低下している領域を特定することができる。そして、これらの変化の効果量は、ASDの症状の強さと相関する。(これは検査への第一歩になる)

2)機能的結合が低下しているのは感覚領域と運動領域との結合が中心で、亢進しているのは前頭皮質と頭頂皮質をハブとする結合で、どちらも基本的には皮質間の結合に限られている。

3)これまでの研究で示唆されていた、皮質と小脳や脳幹との結合性の変化は確認できなかった。(といっても否定されたわけではなく、今後症状の詳細と相関させる方向でのAI研究が進むだろう)

4)感覚野と運動野の結合性の低下は、この2領域間内での結合の低下と同時に、この2領域と他の脳領域との結合が低下することで起こっている。(ASDの人たちが示す外界の刺激に対する閾値の低さに関わるような気がする)

5)脳の前頭葉、頭頂葉は、自発的に何かを実行するときに重要な機能を果たしている領域で、計画を立てたり、果敢に決断したりすることに関わる。この研究では、ASDの人たちではこの領域の結合が亢進していることが示されたが、コミュニケーションや日常生活での困難がこれらの領域の変化と関わっていると考えられる。(この領域に対する磁場や電流を用いた介入も行えるかもしれない)

6)ただ、これらの変化が原因か結果かは明確でない。実際、これらの変化の効果量は年齢が高いほどはっきりする。このことは、同じ変化が長期間維持されることを示すと同時に、この変化を強めていくモーメントが働いていることを示している。(早期診断に関しては、さらに研究が必要なようだ)

他にも多くの重要な点が指摘されていると思うが、以上6点が私にとっては最も印象的だった。

結論だけを見るとこれまでの論文とあまり変わるところはないが、多数の症例を調べていること、探索群と検証群に分けて、発見された指標が診断に使えるかを確認した点が大きい。今後はAIを用いてより迅速な診断が可能になるという期待が膨らむ。この結果が検査として定着し、治療に役立つことを期待している。


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