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自閉症の科学 26 注意欠陥・多動性障害(ADHD)に三叉神経刺激療法が効果がある

2019年8月25日
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実を言うと、小学校の頃学校から児童相談所に行くよう言われた覚えがある。当時は、児童相談が始まったばかりで、検査の理由は覚えていないが、ひょっとしたら授業に集中しないなどの傾向があったのではと思う。今でも一つのことに集中できず、同時にいくつものことを並行してやる癖があるので、ADHDと言われても仕方がないかもしれない。当時は自閉症スペクトラムやADHDなどの概念がはっきりしていなかったためか、その後特に指導を受けるというまでには至らなかった。

冒頭の図に示すように、発達障害は3つのカテゴリーに分けることができるが、症状は互いに重なり、完全に分けることは難しい。

この中のADHDは、一つのことに集中が難しく、動き回るなど行動を自分でコントロールできないなどの症状を示す時に付けられる診断名で、わが国でもADHD児童の数は増えており、全児童の5%近くに達しているのではないだろうか。

児童の場合向精神薬で済ますというわけにはいかないため、治療や指導に努力と時間がかかる。神戸で発達障害児を対象に診療を行っている今西先生のクリニックを見学させてもらったが、一人の児童に長い時間をかけて行動治療を行なっておられた。このためどうしても受け入れられる数に限りがあり、いまや新患の予約は3ヶ月以上待つ必要があるらしい。このように、ADHDを含む発達障害の個別治療には医師とスタッフの数が圧倒的に足りない。

三叉神経刺激療法

そこで期待されているのが、電気や磁気を用いて症状を和らげられないかという可能性だ。ADHDの治療として期待されているのが三叉神経刺激で、皮膚の外から三叉神経が支配する領域に微弱電流を連続的に流す治療法だ。実際、この治療はテンカンやうつ病に使われ効果を上げている。神経科学的メカニズムとしては、刺激によりノルエピネフリンやセロトニンが分泌されるためと考えられているが、人間で詳しく調べることは難しい。結果科学的に計画された臨床試験を繰り返し、効果を調べる以外この方法の評価は難しい。ADHD治療については、パイロット的に行われた臨床治験でいい成績が出ているが、最終判断にはよく計画された臨床試験が必要だった。

ADHDの三叉神経刺激治療の臨床治験

今日紹介するカリフォルニア大学ロサンゼルス校のグループからの論文は、この三叉神経刺激の治療効果を、臨床試験としては最も厳しい無作為化二重盲検試験で検証した研究でJournal of American Academy Child and Adolescent Psychiatryオンライン版に掲載された(McGough et al, Double-Blind, Sham-Controlled, Pilot Study of Trigeminal Nerve Stimulation for ADHD (ADHD治療のための三叉神経刺激の二重盲検かつ偽処置群を対照にした試験研究)Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry in press, 2019:https://doi.org/10.1016/j.jaac.2018.11.013)。

この研究では、専門医の厳格な診察により診断されたADHD患者さんを最終的に62人リクルートし、無作為に三叉神経刺激群と非刺激群にわけている。三叉神経刺激は、ワイヤーで両側のこめかみにはる電極を通して刺激を与える装置を装着させ、2-3mA、120Hzの刺激を30秒ごとに流している。これを4週間続ける。偽処置群も基本的にこめかみに電極を貼るところまでは同じだが、実際の電流は出ない。実際、この程度の電流ではあまり何かを感じるというほどではないようだ。

さて結果だが、ADHD-RS(rating scale)スコアと呼ばれる症状の重さを測る指標で見ると、最初の1週間で急速にスコアは改善し、あとは4週間まで緩やかに低下する。一方、偽処置群も最初の1週間は少し改善が見られるが、もちろん刺激群には及ばない。そして1週間以降はほとんど変化がなくなる。

面白いことに、脳波検査でほとんどの周期レンジで、脳波の活動が刺激群で高くなるが、偽処置群ではほとんど変化しない。このことから三叉神経刺激は神経活動を高めることができるのがわかる。しかしながら、パイロット研究では効果があるとされていた、実行能力や、睡眠の改善などは認められなかった。

この研究から得られる結論は以下のようにまとめられる。

  • このような機械刺激の治療研究では、常にプラシーボ効果を念頭におく必要がある。
  • 三叉神経刺激は、臨床医が診断するADHD-RSスコアを中程度に改善することができる。
  • 安全性は高い。
  • 三叉神経刺激は大脳皮質まで投射路を通して活性化し、その結果として脳波の振幅が高まる。
  • 医師による診断でははっきりとした改善が見られるが、親の印象では、刺激群も非刺激群もあまり改善したとは実感されていない。

厳密な臨床試験でも期待できる結果が出たという結論になる。今後この効果がどの程度続くのかなど、臨床試験が必要だが、自宅でも治療ができる点は大きく、期待したい。

ただ個人的に一番気になったのは、医師の診断でははっきりと改善が見られるのに、親の評価ではほとんど改善を認めていない点だ。この結果を軽々に解釈するのは問題があると思うが、ADHDの複雑さをうかがわせる臨床試験でもあった。

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