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自閉症の科学32:末梢神経の興奮性を変化させて自閉症を治療する可能性

2019年8月30日

少し執筆上の不自由を感じたので、Yahoo Newsに記事を書くのをやめることにした。そのため、書きためた自閉症の科学記事のAASJホームページへの引越しなどに手間取って、新しい論文を紹介するのが遅れていた。ようやく新しいHPの体制が整ったので、8月読んだ中では最も重要だと思う論文を最初に紹介したいと思う(Orefice et al, Targeting Peripheral Somatosensory Neurons to Improve Tactile-Related Phenotypes in ASD Models(抹消の体性感覚を標的にする治療はASDモデルの触覚に関わる症状を改善する)Cell 178, 867-886, 2019)。

自閉症スペクトラム(ASD)を、発達段階の外部との接触、特に様々な感覚器を通しての接触の異常として理解する考え方があり、実際ASDの人達の手記を読むと、十分説得力がある考え方だ。

この論文の著者らもこの考えに立っているが、普通は中枢神経系の状態と考えるASDを、すべて末梢神経の異常として捉えられないかという更に大胆な仮説を立て実験を行なっている。

まず、ASD様の症状を示すマウス遺伝子変異モデルを用いて、同じ変異を末梢神経だけに限局した時どうなるかを調べ、中枢神経は全く正常でも、末梢神経でShank3やMECP2などの遺伝子が欠損すると、同じ様にASD症状を示すことを示している。

さらにこの逆の実験、すなわち遺伝子変異マウスの末梢神経だけに正常遺伝子を発現させる実験を行い、ASD症状が改善することを示している。

これらの遺伝子変異はGABA受容体の興奮性を低下させることが知られている。このGABAを神経伝達に使う神経は、抑制性神経と呼ばれており、感覚器の場合、感覚神経の興奮を抑制する働きがある。すなわち、GABA受容体の興奮が低下すると、感覚神経が逆に過敏になる。

そこで、著者らは脳には到達しないが、GABA受容体の興奮を高める薬剤を使って、感覚神経の過敏性を発達期に抑える実験を行い、末梢神経の興奮レベルを正常化させると、ASD症状が抑えられることを明らかにした。

以上の結果は、ASDの多くの症状が、末梢神経の興奮レベルの変化に起因しており、これを脳には影響のない薬剤で正常化させることができるという画期的な可能性を示している。すでに薬剤も特定されていることから、安全に臨床応用をするめるためには、どの様な体制が必要なのか、速やかな論議が進むことを期待する。

また、人間のASDを末梢神経異常の観点から比べる研究が加速して欲しいと思う。中枢系よりはるかに治療可能性がある。この研究でモデルにつかわれたMECP2遺伝子変異は、欠損症と過剰症の2タイプが存在するので、両者を比べる研究から重要なヒントが得られる予感がする。期待したい。

(この論文は重要なのでYoutubeで解説することを計画している)


  1. amakurisan より:

    自分なりに理解すれば、
    ASとASDとは、感覚器官の正常な発達の完成が3-4歳になされて、その後の、大人の立場からすれば総合的に不利だったと判明しても、人間関係の調節機能が働かないために陥る病です。

    感覚器官の正常性の調整が可能な因子が、中枢神経系でなく、末梢神経系に在るとのこと(研究論文)

    ASの原因が、遺伝子と、育ちと、現在の環境(特に食事の傾向)にあるとすれば、人の心の病(個性)を修正するには、別に壁があると感じます。

    本人がご自分で、病を治そうという思考と行動が無ければ、薬では治らないと、皆様が理解していると思います。
    もしも、薬で治れば、ノーベル賞クラスです。

    1. nishikawa より:

      期待としては、メインの器質異常が介入可能な末梢(視覚や聴覚もふくむ)が中心で、インプットの変化により大脳が変わっているだけだとすると、治療可能性が一段と高まります。もちろん、自閉症と関連する遺伝子を見ると、200はリストされてくるので、単純な考えで済ませるのは問題です。しかし、IQが低くても、外界との接触を自ら求めるウイリアムズ症候群の子どもたちが、活発に話すのをみると、インプットの傾向を変化させると改善すると個人的には期待しています。

  2. snsns より:

    個人的にはADとASDに関心があります。ADの治療に腸管神経系と視床下部、迷走神経を含めた脳腸相関の考え方があるのはしっていましたが、ASDの方にも抹消神経系と中枢神経系に相関のあるのを知って驚きました。ひょっとしたらADとASD双方に被る治療方法が、抹消神経系の研究から生まれてくるのではないかと勘繰りたくもなってきます。新名人が先日誕生しましたが、良い意味でASDとADはシチョウあたりになっているように感じます。

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