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4月23日 扁桃体での社会性に関わるサーキット(5月2日号Cell掲載予定論文)

2019年4月23日

絶対的な善悪が神により決められるとされていた時代に、人間の善悪の判断は好きか嫌いかの感情に深く根ざしていることを率直に指摘したのはスピノザだが、この好き嫌いの感情に関わる重要な脳領域の一つが扁桃体だ。例えば自閉症スペクトラムの子供が、他人の目を見たときより、口を見たときに強く反応するといった不思議が起こるのも扁桃体で、多くの研究者がこの領域の解明にしのぎを削っているという印象がある。

そんな中で今日紹介するケンブリッジ大学からの論文は単一神経の記録から扁桃体で自分の行動と他人の行動をどのように処理して社会性を学習するかを調べた古典的な研究で、クラスター電極や光遺伝学などを多用した研究が圧倒的多数を占める中で、不思議な新鮮さを覚えた。タイトルは「Primate Amygdala Neurons Simulate Decision Processes of Social Partners(サルの扁桃体ニューロンが社会的パートナーの決断過程をシミュレーションする)」だ。

この研究では、大きな褒美をもらえる確率が一方は85%、もう一方は15%という2枚の絵を選ぶ課題を、テーブルを挟んで2匹のサルに行わせ、相手がうまく選んで満足するのを見ている時と、自分が選んで満足するときの扁桃体のニューロンの活動を一個一個比べ、それぞれの過程に関わるニューロンの特性と場所を記録して、自分の判断と、他人の判断をどのように統合して、社会性を獲得するのかを理解しようとしている。課題はあまりにも単純だが、実際には課題を行なっている途中で確率がスイッチするようにして、この急な変化にどう対処しているかも記録している。

一つの神経を記録しながら、いくつかの課題を行わせ、行動と単一神経の興奮との関係を解析、これが終わるとまた次の異なる場所の神経を記録して行動との関連を記録するという、気の遠くなるような実験を繰り返し(サルも大変だと思う)、最終的に以下の結果を得ている。

  • 行動と神経活動の記録から、異なる過程に関わる3種類のニューロンが特定できる。
  • まず絵を見たときにその価値を判断するとき反応する神経細胞で、自分が課題を行なっている時も、他人が課題を行なっている時も同じ神経細胞が反応する。
  • 絵を選ぶとき、相手が選んでいるときに反応する神経と、自分が選んでいるときに反応する神経は異なる。すなわち、自己と他の区別がはっきりしている神経。
  • そして、ある対象に対して他人がこれから行う判断を、自分の頭の中で予想するときに反応するシミュレーションを行う神経。
  • 自己と他の価値判断に共通に関わる神経は、外側に偏るが、あとは扁桃体の中で混ざって存在している。

そして、自分と他の選択を区別するニューロンと、対象物の価値を共有するニューロンの統合により、他人の行動をシミュレーションする神経が生まれることで、他人の考えを想像できる社会性が生まれるとしている。

同じような研究は、他の動物でも行われている。ただ、古典的な方法でこの問題にアプローチしている新鮮さからこの論文を紹介した。しかし、どのような系を用いるようにせよ、価値を決め、行動を選択する過程が扁桃体の神経活動に表象されていることは、自閉症スペクトラムの治療や理解にとってもとても重要だと思っている。


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