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6月22日 発達障害とNMDA型グルタミン受容体(6月18日Science Signaling掲載論文)

2019年6月22日

Rett症候群は運動障害、知能発達障害、自閉症様症状などの発達障害を示す病気で、DNAのメチル基に結合するタンパク質をコードする遺伝子MECP2の機能が片方のX染色体で失われることで起こる。この病態を理解するためにはMECP2が脳神経細胞で何をしているのか理解することが必要だが、MECP2自体は多様な過程に関わっており、特定の機能とピンポイントで結びつけるのは難しい。

最近ゲノム解析が進み、これまでRett症候群として分類されていた中にCDKL5やFoxG1の様な分化誘導因子の変異が存在していることがわかり、この発達過程で多くの遺伝子が働いていることがより明らかになってきた。今後、一つ一つの遺伝子のRett症候群での機能を解明することが、治療法開発につながる。ただ、この様な臨床例を基礎的に調べなおす力がある研究グループは多くない。

今日紹介するバロセロナ大学からの論文は、GRIN2に変異を持つ極めて稀なRett症候群を生理学的に詳しく解析し、症状を改善させる治療法を開発した研究で6月18日号のScience Signalingに掲載された。タイトルは「L-Serine dietary supplementation is associated with clinical improvement of loss-of-function GRIN2B-related pediatric encephalopathy (GRIN2B遺伝子欠損による小児の脳症をL-serineを混ぜた食事で改善する)」だ。

この研究は一人のRett症候群の子どもから始まっている。症状からRett症候群と診断されたが、MECP2遺伝子は正常だったため、エクソーム検査を行い、グルタミン酸受容体を構成するGRIN2B自体に変異が発見された。この遺伝子の変異はウェスト症候群や巣てんかんなどの原因遺伝子として知られていたが、553番目のプロリンがスレオニンに変わる変異はほぼRett症候群に近いことがわかる。

そこで、この変異を片方の染色体に持つ場合、何が起こるかを、細胞学的、生理学的に調べ、グルタミン酸への結合力が低下してチャンネルのコンダクタンスが低下すること、またこの結果としてシナプス形成が低下することを発見する。

NMDARはグルタミン酸だけでなくセリンのラセミ体D-serineやグリシンによって側面から活性化されることでシグナルの調節が行われていることが知られている。そこで、試験管内でD-セリンを加える実験を行うと、変異による様々な異常を改善することがわかった。

最後にこの結果を受けて、患者さんの症状をセリン投与で改善できないか調べている。D-セリンは薬剤として使われ始めてはいるが、子供に投与する時の予想できない副作用を考慮し、この研究では普通のL-セリンを食べさせている。事実、D-セリンはL-セリンより脳内で合成できることがわかっており、この患者さんでもL-セリン投与でD-セリンが上昇することが確認できる。投与量は、500mg/kgなので、5歳児(20kg)とすると、10gという大量の投与が必要だが、食事に混ぜて食べさせることで行動異常が大きく改善したことを示している。

話は以上で、一人の臨床例をここまで解析できた研究グループには頭がさがる。結果については、一見NMDARの変異に限った話と思われるが、MECP2の変異によるRett症候群でもNMDAR受容体の活性が低下しているという指摘もあることから、他の様々な発達障害の治療方法になる可能性がある。RettやMECP2重複症はiPSも存在し、神経を誘導できる。是非この可能性も積極的に調べて欲しいともう。


  1. Okazaki Yoshihisa より:

    RettやMECP2重複症はiPSも存在し、神経を誘導できる

    個人的には、iPS細胞は再生医療より新薬開発、難病病因探索方面での応用に期待しています。

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