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7月13日 ホヤ発生過程のsingle cell transcriptome(Natureオンライン掲載論文)

2019年7月13日

20世紀、ネズミやモルモットといった実験動物に加えて、その時その時の必要性に応じて多くの生物がモデルとして実験室に持ち込まれ、研究された。分子遺伝学でみると、細菌やファージにはじまり、その後ショウジョウバエ、線虫、シロイヌナズナ、ゼブラフィッシュと拡大した。これらは発生学のモデルとしても重要で、突然変異体の形質を解析する遺伝発生学によって発生学は急速に進展した。もちろん分子遺伝学が使えない発生モデルの開発も行われた。アフリカツメガエルがその典型だが、ホヤもその一つだ。

脊索類のホヤは、脊髄動物が進化してくるプロトタイプとして研究が行われているが、細胞を標識する系統解析によって、原腸陥入前の胚に存在する110種の各細胞の運命が決定されていることがわかっている。その意味で、バーコードを用いて行うsingle cell transcriptome解析には最適の動物と考えていたが、ようやくプリンストン大学から今週Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Comprehensive single-cell transcriptome lineages of a proto-vertebrate (脊髄動物の原始形の包括的single cell transcriptomeによる細胞系列)」だ。

原腸陥入前からオタマジャクシ期まで10の異なるステージの胚からsingle cellを調整し、各細胞の遺伝子発現を総計9万個あまりの細胞で解析し、あとはそれぞれの関係を発現している遺伝子の重複などからつないでいく作業になる。

まずこれまでの細胞系譜の研究により明らかになっていた各細胞間の系列関係は完全にバラバラにした細胞の解析から、例えば前後といった構造的関係も再現できる。個体から分離した細胞を用いて発生を調べてきた経験から考えると、感慨が深い。ではこれまでの細胞系譜研究の成果は必要ないかと言われると、そうではないと思う。単一細胞解析だけでどこまで発生を再現できるのか、モデル動物とは全く異なる動物での研究が必要だろう。

特に圧巻は神経細胞の発生で、ほぼ完全な系譜を再現できると同時に、長い距離を移動して、構造からはわかりにくい細胞系譜についても明らかにすることができている。

また、発現しているシナプスでの神経伝達因子と受容体を組み合わせていくと、神経ネットワークの構築を決定することもできている。

他にも、ホヤ特異的な脊索からの筋肉の分化の様子、あるいは終脳が神経細胞とそれに隣接する上皮細胞が相互作用して新しい構造を作ることなどが示されている。

細胞系譜がここまで解析された動物でもこれほどのことができるとは、やはりsingle cell transcriptomeおそるべしという論文だった。


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