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7月24日 性差をゲノム全体から考える(7月19日Science掲載論文)

2019年7月24日

平等の意味は、男女平等を考えるとよくわかる。すなわち身体から精神まで、男女差が存在することは明らかだが、平等とはこの差を無視することではなく、この差を認識しつつそれを克服することになる。この時克服すべき男女差は、遺伝的な差異になるが、これを正確に定義することは意外とできていない。というのも、私たちは性差というと、性染色体の遺伝子発現の違いと思ってしまうが、実際にはこれだけでは説明できないことがわかっている。

今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文はまさにこの問題を、人間、サル、マウス、ラット、イヌの5種類の動物の様々な細胞について、オスとメスで発現に差がある遺伝子を丹念にリストし、そのリストから性差について調べた研究で7月19日号のScienceに掲載された。タイトルは「Conservation, acquisition, and functional impact of sex-biased gene expression in mammals (哺乳動物での性差のある遺伝子発現の保存、獲得、そして機能的インパクト)」だ。

この研究では5種類の動物の12種類の組織での遺伝子発現がオスメスで違っている遺伝子をデータベースや自分の実験から調べ、最終的に全部で4000近い遺伝子を抽出している。

重要なことは、性差の認められた遺伝子の8割以上が常染色体上に存在しており、オスメスでの発現差は最大でも2倍程度にとどまっている。

研究ではまず、この性差が種分化過程でどう変化したかを調べ、23%程度は北方真獣類共通に見られるが、残りの77%は種分化が始まってからそれぞれのラインで新たに生まれたことがわかった。

次に、北方真獣類共通に性差が保存されている遺伝子の多くは、オスメスの体格差に関わる遺伝子で、筋肉、脂肪組織、下垂体に発現が見られる。また、これまで人間のゲノム研究から体格に関わることがわかっている多型と強く関係している。すなわち、体の大きさなどの差は、多くの遺伝子の性による小さな差が集まって形成されることがわかる。

実際、オスメスの差に関わる遺伝子は、特定の生物学的プロセスごとにまとまっている。例えばメスの大腸や甲状腺で発現が高い遺伝子群はなぜか免疫反応に関わっているし、脂肪組織で高い遺伝子はミトコンドリアの翻訳に関わっている。詳細は省くがオスにも同じように性差を示す遺伝子と特定の生物学的プロセスとの相関が見られる。おそらく、これらの情報は様々な病気の男女差を考える上で最も重要な情報になると考えられる。

最後にこれらの性差のある遺伝子発現に関わる遺伝子調節領域を探索し、約6000種類の性差発現に関わる83箇所を特定している。そして、これらが実際に性差に関わることを、転写因子の結合プロファイルを集めたデータベースを用いて探索し、調べた多くの領域で、性差に関わる変化がおこると、それに伴う転写因子の結合が変化することも確かめている。また、一部の遺伝子については、遺伝子改変を行い、それによりオスとメスの性差を説明する転写の変化を誘導できることも示している。

以上、地道で膨大な研究だが、目的がわかりやすく、特に種特異的な性差に切り込んでいる点で、今後様々な男女の生物差を私たちの社会が克服するためには重要なデータになる気がする。


  1. okazaki yoshihisa より:

    性差の認められた遺伝子の8割以上が常染色体上に存在しており、オスメスでの発現差は最大でも2倍程度にとどまる

    性染色体の遺伝子発現差だけではなく、複雑怪奇。
    性差のある常染色体上の遺伝子発現調節は性染色体遺伝子によって行われているのでしょうか?

    1. nishikawa より:

      元はそうですが、カスケードになっていますから総て性ホルモンという話にはなりません。

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