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7月26日 自閉症を隠す(7月23日号The Lancet掲載論文)

2019年7月26日

比較的文化系マインドの強かった私は、精神科も進路の選択肢の一つとして考えていた。そのため、当時精神科の助教授をされていた高木隆郎先生の読書会に2度ほど出た覚えがある。高木先生は当時は珍しかった児童精神医学を専門に診療や研究をされていたが、ある時「治療と称して子供の行動を正常化させることが本当にいいのか、実際には良い子ぶった演技を強要しているだけではないのか」と疑問を呈され、新鮮に感じた覚えがある。大学をお辞めになってから開業され、今もお元気で診療しておられると思うが、卒業してからは一度患者さんを紹介した以外、お会いしたことはない。

前置きが長くなったが、今日紹介する英国キングスカレッジからの論文はまさに高木先生が指摘された、自閉症児が一般の人に合わせるため自分を演じているのかどうか、成人した自閉症の人々に直接たずねた研究で7月23日号のThe Lancetにオンライン出版された。タイトルは「Compensatory strategies below the behavioural surface in autism: a qualitative study (自閉症の行動の表面に隠れた代償戦略:定性的研究)」だ。

まず告白するが、紹介するのが難しい論文だ。研究では、自己診断も含めて18歳以上の自閉症症状を持つと考えられる人たちにネットで呼びかけてアンケートに答えてもらい、全質問に答えた136人(医師による診断:58人、自己診断:19人、特に自閉症と診断されたり自覚もないが社会に適合しにくい:59人)について、分析を行ったものだ。

結果は予想した通り、自閉症的傾向は決して自覚されないわけではなく、社会的規範に合わそうと様々な努力を行っていることを示している。成人して症状も軽くなった後とはいえ、自閉症を社会性の欠如と単純に決めつけることの間違いを指摘するものだ。このように社会に適合しようとする代償努力は、自閉症の診断が遅れたり、いじめの対象になったりの原因になり、診断や治療を考える上で必須の条件になると結論している。

実際私たちだって、社会に合わせるために自分を演じるし、良い子ぶるのが普通だ。その意味で、自閉症はあくまでも自閉症スペクトラムとして神経多様性として捉えることを改めて認識させる論文だった。

これ以上の紹介は難しいので、アンケートの回答に書かれていた「演じる」努力について抜き書きして終わる。

「いつもどう答えるか考えています。」

「話すときは、外国語を話しているようです」

「実際の行動と心は違うのに、周りの人にはそれはわかりません」

「人と付き合うのは多くの問題がありますが、わからないよう隠しています」

「他の人の行動パターンをよく観察し、それを真似するようにしています。」

「演じるのは必要だからで、人間がいかに残酷か嫌という程経験しています。」

「私と同じ言語を持つ自閉症の友達とは驚くほどうまくやれます。一般の人でも目をそらしても気にしないほとは付き合いやすいです。」

「社会に出て初めて自分が自閉症気味だと気付きました。」

「いつも自分を演じていることを自覚しています」

これはほんの一部だが、心のバリアーを外す必要があるのは、まず私たちの脳からだと思う。


  1. okazaki yoshihisa より:

    自閉症的傾向は決して自覚されないわけではなく、社会的規範に合わそうと様々な努力を行っている

    自閉症患者さん自分の症状に気付いておられる方が多く人知れず努力されておられるようです

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