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3月27日:トリプルネガティブ乳がんの悪性度に関わる遺伝子XBP1(Natureオンライン版掲載)

2014年3月27日
乳がんの遺伝子についてはこれまでも紹介して来たが、今日は最も悪性度が高いことが知られているトリプルネガティブ(TN)乳がんについての研究を紹介する。TNと言うのは、乳がんの多くに発現が見られる遺伝子エストロジェン受容体、プロゲステロン受容体、そしてHER2と呼ばれる増殖因子受容体が全く発現していない乳がんだ。現在乳がんの治療の主力が、この3つの遺伝子を標的にしているため、TN乳がんは治療が困難である事が多い。TN乳がんの悪性度を決める分子に迫ろうとしたのが今日紹介するコーネル大学からの論文でNatureオンライン版に掲載された。「XBP1 promotes triple-negative breast cancer by controlling HIF1a pathway (XBP1分子はHIF1a経路を調節してトリプルネガティブ乳がんを促進する)」がタイトルだ。この研究はTN乳がんでXBP1と呼ばれる分子の発現が高いと言う発見から始まる。XBP1は免疫反応に関わる遺伝子発現調節に関わる分子として研究されて来たが、最近ではこのホームページでも紹介した小胞体ストレスに反応して遺伝子発現に関わる機能に注目が集まっている。そこでXBP1とがんの悪性度との関係を調べるため、RNAを使って遺伝子発現を押さえる手法を使ってTN乳がんでのXBP1遺伝子の発現を押さえると、期待通りがんの増殖や転移が押さえられた。また、ヒトTN乳がんをマウスに移植して抗がん剤で治療するモデル系で、XBP1抑制により再発を防ぐ事が出来る事も示された。最後に実際のTN乳がんでXBP1の発現量が高いほど再発が早い事も明らかにし、XPB1がTN乳がんの悪性度を決める鍵である事が示された。一般の方にとってはこの発見で十分だろうが、将来の創薬可能性などを考えると、この分子がどう悪性度と関わるのか分子経路を明らかにする必要がある。この研究では、XBP1がHIFaと呼ばれる分子と結合してHIF1aを活性化し、低酸素反応と同じ細胞反応を引き起こしている事がわかった。とすると、XBP1とHIF1aの結合を抑制できる様な薬剤が開発できればTN乳がんの治療にも光が見えるかもしれない。   この様な研究が示すのは、がん細胞自体の遺伝子診断が急速に普及している事だ。事実患者さんがこの様な専門情報に面してどう決断すればいいか迷うのではと心配されている。しかし同じ事は医師の側にも言える。実際がんの専門家が複雑ながんの遺伝子解析結果を理解し臨床に生かせるのかが心配だ。特に、エクソームやマルチプレックス解析(多くの遺伝子を同時に調べるテスト)の結果は単純ではない。この点について研究した論文がJournal of Clinical Oncology3月24日号に掲載されていたので紹介しておく。タイトルは「Physicians’ attitudes about multiplex tumor genomic testing (がんゲノムのマルチプレックステストに対する医師の対応)」で、ダナファーバーがん研究所からの論文だ。研究では、ダナファーバーがん研究所でがんの治療に当たる専門医についてアンケートを行い、この研究所で開発されたOncoMapによるがんゲノム検査結果をどう理解し使っているかを調べている。詳しい内容は省くが、この様なトップの病院の専門医の間でさえ遺伝子検査に対する理解や利用に大きな差がある。ましてや乳がんの患者さんを治療している一般病院となると理解度ははるかに低いだろう。ゲノムは21世紀文明の基盤になるとは言え、人間の頭がついて行かない状況がよくわかる。しかし逆さまから見ると、人間の思考がついて行けないこの分野は21世紀最も期待が持てる分野だ。

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