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3月30日:自閉症の脳組織障害(3月27日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2014年3月30日
これまで自閉症児の研究については重点的に紹介して来た。子供の育成は我が国の重要課題である事は当然だが、将来の科学研究助成政策を考えるためにも重要だと思っている。まず自閉症は人間特有の脳の病気だ。たしかにモデル動物はあるが断片的でしかなく、メカニズムの一部の検証に利用できても、病態の全像理解には向かない。ゲノム研究からも何百もの遺伝子が関わる複雑な病態である事がわかっている。しかし早期診断が可能になって来ており、脳の可塑性を信じて様々な治療法を試してみる事が出来る。また、自閉症の東田さんが自ら語る本を始め、ブログなど自閉症児自身からの主観感覚の記録が始まっている。無論動物の脳ですら複雑でそのいつになれば理解したと言えるのかわからない事は確かだ。しかしだからといって、動物脳の理解の延長がそのまま人間の脳の理解はでない。質的に違う対象であり、人間の理解は後からと言う話にはならない。さらに人間の脳や病態を理解するためには他にも社会と真の対話による様々な社会的準備も必要だ。最先端の研究を知って、これが我が国でも可能かチェックリストを作る必要がある。その一つが自閉症患者さんの脳組織の利用だ。今日紹介する研究は自閉症児脳組織を用いて遺伝子発現を調べたカリフォルニア州立大学サンディエゴ校からの仕事で、3月27日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Patches of disorganization in the neocortex of children with autism(自閉症児大脳新皮質にパッチ状に現れる脳組織構成異常)」だ。研究では2歳から15歳までの自閉症児の凍結脳組織を組織バンクから手に入れて、様々な遺伝子の組織内での発現をin situ hybridizationと言う方法を用いて調べ、全く新しい重要な発見に至っている。先ずこの仕事の重要性は子供の脳を調べている点だ。これまで大人の脳を調べた仕事はあったが、治療可能性を考えると様々な変化が加わる前の子供の脳を調べる意味は大きい。結果だが、自閉症児の脳は普通の染色で調べても正常人と変わる事はない。しかし遺伝子発現を調べると、普通なら大脳皮質の特定の層全体で発現が見られる遺伝子が、自閉症時の脳では虫食い状に欠損している場所が見つかると言う結果だ。さらに、欠損した領域の周りでは同じ遺伝子発現が亢進しており、特定の分子を発現した細胞の分布や移動に異常がある事を疑わせる。この異常は調べた11例中10例に見られるが、正常児では11例中1例にしか見られない。異常の見られる遺伝子は、自閉症に関わりのある遺伝子だけでなく、様々な遺伝子発現で見られ、また皮質の3、4層に強く見られる事から、細胞移動などの脳細胞分布異常の結果ではないかと結論している。事実この結果は、これまでこのページで紹介して来た生理学的解析や、ゲノム解析結果とも一致する点が多い。何よりも、欠損が部分的である事は治療可能である事を期待させる結果だ。私の様な素人にも大変説得力のある研究だった。   この1年自閉症についての研究を読んで来て気づくのは、特にアメリカで自閉症の研究が急速に進みつつある事だ。完全な理解は到底無理とあきらめず、出来る所から様々な研究を積み重ねて行く。臨床と基礎が連携して実際の人間をしっかり研究する。そして今日紹介するように、患者さんの貴重な資料が利用できる対話と体制がある。助成額も大きいと思うが、それだけでない社会的支援を感じる。我が国では何が可能で何が可能でないのかチェックリストが必要だと思った。

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