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4月4日:あらゆるがんに普遍的に効く薬剤の開発は可能か?(Nature オンライン版論文)

2014年4月4日
個別のがんの遺伝子を調べ、増殖に関わる分子を標的にする薬剤の出現はがん治療を大きく変えた。今も多くの研究が分子標的の発見、それに対する薬剤の開発に注がれている。しかしがんと正常細胞を分けるがん特異的性質があってそれを標的にできれば、あらゆるがんに使える薬が開発できる。この目的で研究していた2つのグループ、一つはスウェーデンカロリンスカ大学、もう一つはオーストリア科学アカデミー研究所からMTH1と呼ばれる酸化プリンヌクレチドを分解する酵素が標的としてがん治療に利用できる可能性が発表された。論文のタイトルはそれぞれ、「MTH1 inhibition eradicates cancer by preventing sanitation of the dNTP pool (MTH1阻害はdNTP貯蔵をクリーンに保つプロセスを阻害してがんを消滅させる)」と「Stereospecific targeting of MTH1 by (s)-crizotinib as an anticancer strategy(s−クリゾティニブは立体構造特異的にMTH1を抑制してがん治療に利用できる)」で、同時にNatureオンライン版に発表された。詳細は省くが前者はMTH1を最初から標的にした分子の開発、後者はメカニズムのわからないSCH51344と名付けられた化合物の標的探しからMTH1にたどり着き、この阻害剤としてs−クリゾティニブを同定したと言う仕事だ。MTH1の機能を簡単に言うと、酸化された核酸を元に戻す役割をしていると言える。急速に増殖しているがん細胞は酸化ストレスにさらされており、核酸プールが酸化される。酸化された核酸を遺伝子に取り込むと、遺伝子が切れて細胞は死ぬ。これを防ぐ一つのメカニズムとしてがんではMTH1分子の発現を上昇させて、酸化した核酸を正常に戻している。今回発表された2編の論文は、MTH1誘導現象ががん特異的で、この分子を標的にする薬剤で直腸がんなど幾つかのがんを消滅させる事が出来ると言う結果を報告している。論文からだけではなぜMTH1ががん特異的に上昇するのかなどはまだ不明な点も多い。しかし後者の論文では、多くのがんの原因遺伝子であるRAS分子と関わりがある可能性を考えているようだ。いずれにせよ、マウスを使ったモデル実験では大変有望株に思える。副作用だが、MTH1遺伝子が欠損したマウスは正常に生まれて来て成長する。即ち正常細胞の生存にはこの分子は必要ないと言う事になる。とすると薬剤としては更に有望だ。水をさすとすると、長期に使った時、脳細胞の変性を誘導しないか心配だ。事実九州大学の中別府さん達はこの分子が脳障害を防ぐのに役立つ事を示す論文を発表している。しかし、がんを消失させる方が優先される事もあるだろう。他の抗がん剤と比べると全身の副作用は少ないと期待できる。もちろん短期治療に使う場合はもっと安心できるだろう。是非開発を加速して欲しい薬剤だ。

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