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4月11日 普遍文法(アメリカアカデミー紀要オンライン版掲載)

2014年4月11日
多くの読者にとって「普遍文法」は聞き慣れない言葉だろう。これはノーム・チョムスキーにより提唱された20世紀後半の言語学をリードした概念で、私たちが頭の中に生まれつき備えている文法構造のことだ。即ち、普遍的文法構造とは、生まれつき脳のネットワークとして存在している「意味を持った形で単語を並べる(統語・文法)能力」と言える。私が読んだ事のある何人かの現代の言語学者はほとんどこの理論の影響を受けている。確かに説得力のある魅力的理論だが、脳科学的に検証するのは簡単ではない。今日紹介する論文はこの難問に地道なチャレンジが進んでいる事を実感させる。イタリア、アメリカ、フランス、チリの国際チームによる論文で、アメリカアカデミー紀要オンライン版に発表されており、タイトルは「Language universals at birth(生下時の普遍言語)」だ。研究は生後2−5日目の赤ちゃんにblif, lbif, bdifなどの音を聞かせ、脳の言語野の反応を流れる血液のヘモグロビンの酸化の程度として測定している。赤ちゃんの頭蓋が薄いおかげで、カメラを用いて血液の色を調べる事が可能で、活動している脳領域ではヘモグロビンが酸化する。聞かせる音だが、ほぼ全ての言語に通用する「sonority sequencing principle (SSP):聞こえ方の配列原理」に従う音節と、従わない音節を使っている。SSPとは音節の中心の音(普通母音)の前は小さい音から始まり、後ろは大きい音を経て終わると言う原理で、blifはこの原理にかなう。一方lbif,bdifは読んでみるとわかるがこの原理に合わない。従って研究で問われたのは、SSPは生後既に存在しているかどうかだ。結果は明瞭で、SSPに合わない音(lbif, bdif)を聞かせると脳の言語野は強く反応し、SSPにあった音(blif)を聞かせると反応は弱いと言う結果だ。即ち、生まれた時には既に聞いた音がSSPに合うかどうかを判断できると言う結果だ。SSPが胎児期の経験により発生したとも疑われるが、胎教説では母国語に特徴的なシラブルの学習が生後1年までかかる事を説明できず、この可能性は低いと考えている。チョムスキーは普遍文法や生成文法理論を脳科学で検証するのをあきらめていた節もあるが、この論文にはどう反応するのだろう。今後は統語理論などの本質的理論にどう迫るのかまだまだチャレンジが必要だ。

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