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5月25日:格差問題の科学(5月23日号Science誌特集)

2014年5月25日
今週号のScience誌を開いて、「格差問題の科学」を特集しているのに驚くとともに、感銘を受けた。編集者のコメントから始まる様々な総説を合わせると10編を超す論文が掲載されている。もちろん科学分野での格差だけが特集の主題ではない。社会格差全般を問題にしている。これを示すため、有名なPikettyとSaezに「Inequality in long run(長期の格差)」と題する総説を依頼している。この二人は貧困や格差で有名な経済学者で、経済学専門でない私ですら2012年この二人による全米経済研究所のレポート「Optimal Labor Income Taxation」は読んだ。購入しただけでまだ読んでいないが、最近出版されたPikettyの「Capital in the 21st Century(21世紀の資本論)」は、Pikettyの母国フランスだけでなく、アメリカでも大きな話題になったと聞いている。今回Scienceに掲載された総説も特に科学行政について書いているわけではなく、これまでの研究と同様、収入や資産の統計分析から格差是正の方向性を探る彼らの試みがテーマだ。従来通り、成長を上回る資産からのリターンが格差の大きな要因で、税を含む政策による所が多いと結論している。では科学についての週刊誌Scienceがなぜこの問題を取り上げたのだろう?この問題解決に果たす科学の役割の自覚が大きな動機になっているようだ。もちろん社会矛盾を科学で克服すればいいと言った傲慢な発想の企画ではない。例えばPikettyとSaezの論文の背景には、収入、資産、税を始め様々な経済活動に関するいわゆるビッグデータの解析がある。またプリンストン大学のDeatonよるこの特集の基調論説では、「inevitable inequality(格差は不可避か?)」と題して、格差問題が自由な社会の当然の結果ではなく、解決すべき問題であることを強調している。イデオロギーが消失した今、科学に対する期待は大きい。そして編集主任のChinが「The science of inequality(格差の科学)」」と題する論説を書き、格差に関わるビッグデータを扱うことは、生物やヒトのゲノムデータを扱うことと同じ科学の問題で、21世紀がこれらの情報を統合し、社会問題に対応できる科学を構築する時代であることを示唆している。もちろん競争が当たり前の科学界について分析したミシガン大学のXieの論文も掲載されている。詳しくは紹介できないが、「科学での格差の是正論議は敗者の不満でしかないのか?」と言う問題を様々な面から分析している。結論はないのだが、格差により若い優秀な研究者の育成が阻害される懸念は同感だ。   我が国ではScience誌と言うと、科学論文を発表する超一流雑誌としてしか受け取られていないようだが、21世紀の新しい科学を考えようとする明確な意志と使命感を感じる。研究者だけでなく科学行政に関わる多くの人に読んで欲しいと思う。しかしこの様な分野を超えた交流がないことが我が国の問題かも知れないと閣僚名簿を調べてみたら、水産大学出身の防衛大臣以外は理系閣僚は皆無だった。しかしこの結果に妙に納得してしまうのは私だけだろうか?

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