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5月30日:脳血流量に見られる思春期男女の大きな差(アメリカアカデミー紀要オンライン版系再論文)

2014年5月30日
まだ実現していない差別のない社会を確立することは21世紀の課題だ。ただ本当に差別をなくし平等を実現するためには、差別の元になる違いをしっかり理解した上で、なぜそれを克服して平等を実現するかという理論構築が重要だ。これまで人類が克服を目指して来た差別の中でも男女差別はこの典型で、まだまだ不十分とは言え、差を認めた上での平等の実現を目指した取り組みが進んでいる。ただ、男女差についてまだまだ知らないことが多い。今日紹介する論文は、脳の様々な部分の血流を思春期前後の男女で比較したペンシルバニア大学の研究でアメリカアカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Impact of puberty on the evolution of cerebral perfusion during adolescence (青年期の脳血液かん流の進化に対する思春期のインパクト)」だ。この研究ではArterial Spin Labeling(ASL)というMRIテクノロジーを使って脳血流量を測定している。原理は私も完全に理解できているわけではないが、脳に流入する血液中の水分子のスピンを変化させて標識し、それが普通の水と置き換わる速度をMRIを使って測定すると考えればいい。通常血流量を測定するにはアイソトープや造影剤が必要なため、思春期の健常人に利用するには敷居が高すぎた。しかしASLではこの必要がないため、900人を超す健常人の脳血流の測定が初めて可能になった。この研究はASLにより検出される脳血流量変化の大規模コホート研究と言える。結果には驚かされる。通常脳血流量は小児期に高く、その後徐々に低下するが、女性の脳の特定の部位では思春期に低下が止まり、青年期にかけて上昇することが発見された。この変化は脳全体で見られるのではなく、default mode networkと名付けられている、記憶を辿ったり、夢想したりといった内省的過程に必要な脳内ネットワークの拠点領域や、あるいは感情に反応して何かを決めたりするのに必要な領域でこの傾向が最も著しい。一方男性では、これらの領域の血流量は青年期にかけて低下する一方だ。なぜこの差が生まれるのかについては今後の研究が必要だが、脳の特定の領域でしか見られないことを考えると。思春期の女性ホルモンに反応すると言った全身的な反応ではない。おそらく女性特有の思春期の脳発生を反映しているのではと推論している。この研究ではまだ現象論の範囲を超えないが、今後様々な異常状態を調べることで、男女の脳の発生や生理の差が明らかになるだろう。例えば性同一性障害などの基盤もわかるようになるかもしれない。調べてみると、ペンシルバニア大学はASLを開発しこの分野のセンターとなっている。この新しい方法を取り入れた長期にわたる脳発達のコホートが行われていることを知ると、脳研究に取り組むアメリカの本気度がよくわかる。

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