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7月10日 相場と脳(アメリカアカデミー紀要オンライン版)

2014年7月10日
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先日も事務所に証券会社の人が突然訪ねて来た。仕事中のNPOの事務所に話をしにくるとは非常識だとお帰り願ったが、アベノミックスのおかげで我が国も投資ブームのようだ。しかしオランダのチューリップ投機以来、投機はバブルを生み、バブルははじける。これまでこの現象は経済学の対象だった。これに真っ向からチャレンジしようとしたのが今日紹介するカリフォルニア工科大学からの論文でアメリカアカデミー紀要オンライン版に掲載された。責任著者の所属はなんと、Humanities and social science and computational and neural systems(人文社会科学とコンピューター及び神経システム)と名付けられた部門で、時代を先取りしようと言うアメリカの大学の意志を感じる。論文のタイトルは「Irrational exuberance and neural crash warning signals during endogenous experimental market bubbles(内因性市場バブル期間にみられる不合理な活力とクラッシュを警戒する神経シグナル)」だ。研究では主にUCLAの学生さんにVeconLabと言うウェッブサイトから得られるソフトを使って投資ゲームをしてもらう。大体20人位が参加する投資セッションの間に、2−3人は機能的MRIを用いて脳活動を計り、相場や自分の資産変動にどのような変化を来たすかを調べている。この研究の面白さは、結果の解析の仕方だ。それぞれの相場で上昇局面、下降局面、場合によってはバブルやクラッシュが起こり、それに応じて被検者は売り買いをするが、その間の線条体側方部の側座核を含む領域(NAcc)の活動性を測定し、その活性で将来の相場が予測できるかどうかという観点でデータ解析をしている。結果は、NAccの活性と相場の悪化、クラッシュとが相関している。言い換えるとNAccが活性化しているときは相場が将来悪くなることを無意識に予想していることになる。事実NAccが興奮しているにも関わらず資産を買った人達は投資成績が悪い。一方、投資が上手な人が売りかけるときには島皮質(Ins)と呼ばれる部分の前方が活性化している。この結果から次のシナリオが示された。相場に参加している人達は一様にバブルを無意識に感じ始めるが、この時NAccが活性化している。ただこの時Insが活性化して不安を意識する人がいち早く資産を売ることが出来るため、いい投資成績を上げると言うシナリオだ。そして最後に有名な経済人の言葉で結んでいる。「他の人がどん欲になっているのを見たら恐れよ」(ワレンバフェット)神経科学の言葉で翻訳すると、「NAccが活性化している時Insが活性化するのがいい相場師だ」となる。さらに前FRB議長バーナンキは「バブルを防止するためには経済要因と生理学要因の両方にまたがった研究が必要だ」と言っているらしい。経済を本当の科学にするには、脳研究が不可欠だ。今日紹介したのはこれを地でいった研究だが、我が国の経済界とはずいぶん認識が違うようだ。

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