7月16日:ゲノム・友情の絆(アメリカアカデミー紀要オンライン版掲載論文)
2014年7月16日
「え!ウソ!」と思わず首を傾げたくなる論文だ。今日紹介するエール大学からの論文のタイトルは「Friendship and natural selection(友情と自然選択)」で、私たちが友情を感じる相手を決める行為に遺伝的影響があることを示す研究だ。驚くことに、これまでも友人を選ぶ時遺伝的相性があることを示す研究があったようだ。しかしこの研究ではGWASとして知られる全ゲノムレベルの多型を調べて特定の形質との相関を見る方法を用いている点で、一部の遺伝子にだけ着目したこれまでの仕事とは異なる。研究では、心臓疾患と遺伝子の関係を調べる目的で行われた約50万の一塩基多型(SNP)検査を受けた約1900人の中から、友人関係にある組み合わせと、そうでない組み合わせを選び出し、友人を選ぶ時遺伝的な相性を自然に選んでいるのかどうかを調べている。結果はイエスで、全SNPを含んだ計算から得られる相性が優位に友人同士で高い。さらに、個々のSNPの類似性について見てみると、友人同士は似たSNPは特に類似性が高く、離れているSNPではより違いが際立っていることがわかった。平たく言うと、友人同士だと、似ている部分も似ていない部分も極端にはっきりすると言う結果だ。このよく似ているSNPがどの遺伝子に相応するかを調べると、臭いに関わる遺伝子が集まっている。逆に似ていないを方を調べると、免疫関係の遺伝子が集まっている。言って見れば臭いで友人を選び、免疫では補い合うと言うよく出来たシナリオだ。更に計算を繰り返し、これらの相性の遺伝子群は進化としては新しい形質だとまで結論している。面白い結論だが、後は信じるかどうかだけだ。この論文を読んで最初に頭に浮かんだのは、もしこんな論文の査読をするはめになったらどうするかという疑問だ。データはチェックするには大きすぎるし、数理とは元々合理性を確かめることが目的で、仮説に影響されるためなかなか妥当性がないとは指摘しにくい。実際には、これが実社会にどのような効果を及ぼすかと言う実体部分がないと本当の評価は難しい。おそらく掲載するかどうかの判断に迷うだろう。ただ間違いなく「自然選択」だという結論には反論するだろう。というのも、この研究で選ばれた友達同士のグループ自体多様なはずだ。従って、友人として選ばれても、選ばれなくても結局多様な集団はそのまま残るはずだ。選択のしようがない。まあ、この部分について改訂を求めて掲載を許可するだろうなと思った。しかしはっきり言ってふざけた仕事だ。ではなぜ掲載を許可するかと言うと、ゲノムと社会の関係を先取りしているように見えるからだ。このホームページも含めて、ゲノムと言うと健康や医学に役に立つと宣伝される。しかし、私はもっと違った、おそらく文明的意味があるはずだと思う。私の親世代まで、自分のゲノムを調べることは出来なかった。死ねば火葬場であらゆる情報とともにこの世から消える。しかし、これからはゲノムも含めて情報だけはこの世に残る。もちろん残したくないと思えば消せば良い。親世代に全く不可能だったことの実現がそこまで来ているのだ。ゲノムを比べ合って相性を見る。まじめにやると困るが、そんなゲームで遊ぶ時代が来るのは大歓迎だ。