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7月22日:論文掲載の易しさからトレンドを見る(7月17日号Cell誌掲載論文)

2014年7月22日
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今は出来るだけ多くの雑誌に目を通したいと思っているが、それでもNature, Cellと言ったトップジャーナルに掲載されている論文にはより注意を払っていることは事実だ。理由は簡単で、やはり読んで面白い論文が多い。実際雑誌でどのように論文を扱っているのかなどほとんど知らない時代、トップジャーナルに論文を送っても、それをレフリーに送ってもらうことすら難しかった。それだけ厳しいフィルターがかかっている。と言っても勿論チャンスがないわけではない。独立して初めて自分の教室からNatureに論文を通したときは皆で大騒ぎした。その後世間を知って、多くのトップジャーナルで論文がどのように扱われるのか理解し、またそれに関わるエディターと知り合いになると、幾つか問題に気づくようになる。いい悪いは別にして、この様なトップジャーナルではエディターが独立して次のトレンドの方向性を探して掲載することに強い意志を持っている。従って、論文自体の質は少々犠牲にしても、将来の可能性につながる論文が掲載されている可能性が高い。このこともトップジャーナルに掲載された論文が面白い理由だ。最近私が感じるのは、ヒトゲノムと精神活動をどう結合させるかに関する手探りの研究が多く掲載されている点だ。このホームページでもすでに4−5編、NatureやCellに掲載された自閉症に関する論文を紹介したと思う。今日紹介するワシントン大学からの研究もそんな一つだろう。7月17日号のCell誌に掲載された論文で「Disruptive CHD8 mutations define a subtype of autism early in development (CHD8遺伝子の機能を破壊する突然変異は発生初期の段階で自閉症の亜型を診断できる)」がタイトルだ。このグループはSimons Simplex Collectionと呼ばれる遺伝子異常の親子データベースの検索から、CHD8遺伝子機能が破壊される突然変異が自閉症と関わることを明らかにしていた。今回の研究のハイライトは、この遺伝子異常があると100%自閉症か知的障害を示し、正常人には認められないことを確認している点だ。即ち、この遺伝子の突然変異があれば自閉症様の症状を示すことが生まれる前から診断できると言う結果だ。更に、自閉症の一部は脳発生時の形成異常という器質的障害の結果であることも明確になった。事実、この遺伝子の突然変異では、頭の周囲が大きくなり、目の間が広く、目がくぼんでいる。他にも、ニューラルクレストと呼ばれる細胞の異常を思わせる消化管症状がほぼ全員に認められる。このように、この論文からもゲノム、身体症状、精神症状と様々な情報レベルを統合する方向への研究がエディターに好まれているなと言うのが理解できる。勿論器質的変化と精神症状を結びつけることで初めて論理的治療が可能になるかもしれないことを考えると、重要な仕事だ。特に顔の構造形成や腸の動きに関わるニューラルクレスト異常が基盤にあると言う発見は重要だ。しかしはっきり言って、ではどのような異常が基盤になっているのか切り込むと言う点では甘い論文だ。この遺伝子のノックアウトマウスは発生致死で、九大の中山さん達が研究して来ている。その研究から見ると、この論文が脳発生の基盤を調べる目的で行ったゼブラフィッシュの解析は余りにお粗末と言わざるを得ない。ひいき目に考えれば、ゼブラフィッシュを使うことで発生段階を操作する薬剤を開発しようとしているのかもしれないが、レフリーやエディターは甘いなと言う印象が強い。結論的に言うと、この部分は読後失望させる。ただ、レフリーが甘いなと思える論文がトップジャーナルに掲載されるときは、未来のトレンドを示しているかもしれないと深読できることは、教訓にしてもいいかもしれない。

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