AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 7月23日:新顔ホルモンKisspeptinを利用した体外受精(7月21日号Journal of Clinical Investigation掲載論文)

7月23日:新顔ホルモンKisspeptinを利用した体外受精(7月21日号Journal of Clinical Investigation掲載論文)

2014年7月23日
確かめたわけではないので聞き流して欲しいが、日本の体外受精による新生児比率は3%に達していると聞いた。先進国平均は大体1%前後、一方イスラム圏では4%近くに達するとされているので、少し驚きの数字だ。それを反映しているのか、ヒトクローン作成成功を報告する論文は2報とも日本人が筆頭著者になっている。我が国にこの分野の優秀な技術が蓄積していることがわかる。今日紹介する論文は、体外受精時に卵子を採取する際、卵成熟を促すホルモンとしてKisspeptinがかなり期待できることを示す研究だ。タイトルは、「Kisspeptin-54 triggers egg maturation in women undergoing in vitro fertilization (Kisspeptin54は体外受精治療を受けている女性の卵成熟をううどうする)」で、7月21号のJournal of Clinical Investigationに掲載された。Kisspeptinの遺伝子はKiss1と名前がついており忘れることのない名前だ。歴史の新しいホルモンで、我が国でもペプチド研究に強い武田薬品がこのホルモンの抗がん作用に注目して研究していたのを覚えている。この分子で検索すると、武田薬品研究所から出た2001年Nature論文が最初に来る。実際私もこの論文が出た時をよく覚えている。我が国の製薬会社の研究能力の高さを示すと心強く思ったこともあるが、故人となられたこの論文の著者の一人藤野さんを個人的にも存じ上げていたからだ。藤野さんは製薬企業の側からいつも、大学は基礎研究をしっかりするようにと激を飛ばしておられた。Natureの著者に言われるとつらいなと思いながら聞いていたが、今となってはこのような見識の方が我が国の製薬業界におられるのか心配だ。前置きが長くなったが、研究は簡単だ。Kiss1遺伝子変異があると思春期の性的成熟が阻害され不妊になることがわかっている。内分泌学的研究から、この分子が排卵につながるホルモン反応の最上位に位置していることが最近明らかになり、動物実験でこのホルモンを外から投与するとゴナドトロピンの分泌を誘導することが明らかになっていた。これらの結果から、当然体外受精治療で採卵時の卵成熟誘導にこのホルモンを使う可能性が考えられるが、これを確かめたのがこの研究だ。プロトコルは通常のFSH、ゴナドトロピン受容体刺激剤の組み合わせで排卵サイクルを同期し、超音波で卵が18mm以上の大きさに達した時様々な量のKisspeptinを皮下に一回投与している。その後採卵から始まる通常の過程の各段階で、採卵のし易さ、卵の成熟度、体外受精の成功率、妊娠成功率などを24人づつのグループで調べている。結果は予想通りで、投与量に応じて体内での様々なホルモン産生が上昇し、成熟卵の採取率も格段に上がる。また、成熟卵が安定して得られ、卵の質も高く6nmol以上投与された群で、2−3割の妊娠率があったと言う結果だ。いわゆるLHサージと呼ばれる状態を生理学的に誘導して、体外受精に適した成熟卵を安定して得るための新しい方法になる可能性がある。ともすると生殖補助医療では様々な技術が問題になることが多いが、新顔のホルモンが登場してプロトコルが変わる余地があったとは、まだまだ発展途上の技術のようだ。この使い方に亡き藤野さんならどんなコメントをするのか聞いてみたい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*