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7月27日:シュレム管を知っていますか?(Journal of Clinical Investigateionオンライン版掲載論文)

2014年7月27日
2012年、韓国の科学技術大学院(KAIST)のMD PhDコースの審査に招かれたことがある。、KAISTは科学技術を担う研究者の育成に特化した大学院大学だ。運営などもソウル大学など普通の大学とはずいぶん異なっている。審査員に選んでいただいたおかげで韓国の教育、科学技術政策などよく勉強できたが、最も驚いたのはKAIST大学院に入ると、医学部卒業生は3年の徴兵が免除されることだ。ソウル大学を始め教育省管轄ではこの様な優遇がないらしい。必要ならこの様な差別を行えるのは先進的なのか、後進的なのか判断できないが、いずれにせよ医学部卒トップが大学院に来る。うらやましい限りだ。さてその時いろいろ世話をしてくれたのが、以前から知己があった血管生物学の洪さんで、この分野ではプロの仕事を続けて来た優れた研究者だ。その洪さんがシュレム管の発生について詳しく解析したのが今日紹介する論文で、The Journal of Clinical Investigationオンライン版に掲載された。タイトルは、「Lymphatic regulator prox1 determines Schlemm canal integrity and identity (リンパ管の発生調節因子prox1はシュレム管の分化と機能を決めている)」だ。自分が緑内障でもない限り、普通の人はシュレム管と言う言葉は初めて聞くと思う。これは眼球での房水の排出を調節している一種の脈管で、緑内障はシュレム管が詰まることが原因の一つになっている。これまでもシュレム管が血管やリンパ管と親戚だろうと言う話はあったが、洪さん達は今回、シュレム管の発生がリンパ管の発生によく似ていることを明確に証明した。元々洪さん達は血管やリンパ管を特異的に観察できる様々なマウスを開発していた。おそらく眼球を詳しく調べているうちに、リンパ管の発生を決めているprox1と呼ばれる分子がシュレム管に発現していることを見つけたのだろう。詳細は全て省くが、この仕事から次の様なシナリオが示された。シュレム管は静脈内皮に由来し、同じように静脈内皮由来のリンパ管内皮によく似ているが完全に同じではない。シュレム管は生後形成され、このリンパ管内皮に似ているが同じでなはいと言う性質のおかげで、房水をドレインする特殊な管を形成することが可能になっている。とは言え、発生にはリンパ管と同じメカニズムを共有している。例えばVEGF-Cが増殖に必要である点、また房水の流れと言う機械刺激に応じて分化が進む点、そしてこの機械刺激によりprox1分子が誘導され、シュレム管特異的な安定した内皮が発生維持されている点などだ。あまりなじみのなかった構造の発生が十分理解できた気がする。最後に、緑内障の原因を探る意味で、勿論老化マウスのシュレム管を調べている。その結果、内皮シートの構築が乱れ、線維芽細胞が周りに集まって一種の硬化症が起こり、血管が詰まる原因になっているようだ。ただ洪さんの論文では、この過程を防ぐ方法をはっきり示せていない。同じ号にシュレム管発生について調べたフィンランドのAlitaroのグループの論文も掲載されている。データの豊富さで言うと洪さんの論文が凌駕しており、内容はほぼ同じなので洪さんの論文だけを紹介したが、Alitaroの論文では低い濃度のVEGF-Cを一回投与すると、60日近くまで眼圧が低下することを報告している。今後VEGF-Cを眼圧の高いヒトの治療に使う可能性が模索されると思う。VEGF-Cを少し変化させてリンパ管やシュレム管だけに効く様な分子構造が出来れば、血管新生を心配せず利用できる更に理想的な治療薬が開発できるかもしれない。また洪さんの結果から見ると、線維芽細胞の増殖を局所的に押さえる様なお薬も効果があるかもしれない。私も少しは関わった血管研究の拡がりを実感する面白い論文だった。

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