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8月9日:動脈硬化は本当に生活習慣病か(Global Heart誌6月号掲載総説)

2014年8月9日
長寿国日本では、動脈硬化、高血糖、高血圧は、高齢者の大半が罹患する国民病になっており、無症状であったとしても心筋梗塞、脳梗塞といった疾患へと発展する可能性が高く、国を挙げた取り組みが進められている。このグループは可愛い「メタボ」と言う名前でひとくくりにされており、このメタボは飽食と運動不足が当たり前になった現代病の典型だとするのが大方のコンセンサスだ。では現在とは違っておそらく飽食など考えられなかった古代から中世までの人達には動脈硬化がなかったのか?この問いについて答えるべく、現存するミイラの血管を調べた最近の研究をまとめたのが今日紹介する総説で、6月号のGlobal Heart誌に掲載されていた。タイトルは「Computed tomographic evidence of atherosclerosis in the mummified remains of humans from around the world(世界中に現存するミイラのCT解析で明らかになった動脈硬化の証拠)」だ。総説なので、詳しい方法などは全く記載されていないが、タイトルにあるように、ミイラの動脈硬化についてのこれまでの研究をまとめている。しかし人間の好奇心は尽きないことがこの総説を呼んでわかる。なんとミイラの動脈硬化は1855年には学会で発表された記録があり、1911年には最初の論文が出ている。全て解剖によって明らかにされた。死んで名を残すより、身体が残る方が科学の進展に重要であることを実感する。とは言え、博物館の資料を次から次に解剖することは不可能だ。この疑問に対する研究が進んだのは、高性能のCTスキャン装置が開発され、解剖しなくとも体内の様子が詳しく分かるようになってからだ。この結果、博物館にあるミイラは先ずCTで調べられるようになった。この総説では、エジプトのミイラ76体の38%、ペルーのミイラ51体のうち25%に動脈硬化が発見されている。従って動脈硬化は現代の病気ではなく紀元前の人間の病気であったことは確かだ。とは言え、ミイラとして残っているのは高貴な人達で、今と変わらない飽食を生活習慣とする人達なら納得する。ではもっと苦しい生活を送っていたミイラはどうか?まだ大規模農業が発達せず、社会的不平等の大きくない社会を形成していたアメリカのプエブロインデアン、及びアリューシャン列島で見つかったミイラでも40−60%に動脈硬化が確認された。そしてなんと、チロルで発見され世界中を湧かせたミイラ、アイスマンにも動脈硬化が見られた。このように動脈硬化は現代よりはるかに粗食を続けている古代人もかかっていたようだ。このようにミイラのCT調査から、動脈硬化が現代病ではなく、古代から人類に普通に見られる病気だったことがわかる。また、必ずしも生活習慣病でもなさそうだ。とすると、ミイラは全く新しい動脈硬化の原因を教えてくれているのかもしれない。ご存知のように、アイスマンの全ゲノムは解読され、動脈硬化と関連する多型を持っているようだ。これは私の妄想だが、ひょっとすると動脈硬化がある方が寒い地方で狩りで生活をしていた人間には都合が良かったのかもしれない。5月10日ここで紹介したが、シロクマは北極圏に適応する進化の過程で動脈硬化に関わる様々な遺伝子を変化させ、血液を寒さから守っている。ネアンデルタールではどうだったのか?老人の妄想は果てしなく続く。

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