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8月19日:病をもって病を制す(8月13日号Science Translational Medicine掲載論文)

2014年8月19日
ガン治療と言うと手術、放射線、薬剤、そして免疫療法が中核だが、これとは全く違う病原菌を用いてガンを治療する試みがあることを知った。今日はこのジョーンズ・ホプキンス大学からの論文を紹介する。タイトルは「intratumoral injection of clostridium novyi-NT spores induces antitumor response(毒素を除去したガス壊疽菌の腫瘍内注入は抗がん効果がある)」で、8月13日号のScience Translational Medicineに掲載されている。ここで使われているclostridium novyiは家畜の肝臓に感染して増殖してガス壊疽を起こす強烈な嫌気性菌だ。クロストリジウムの仲間には他にも、ボツリヌス菌、破傷風など強烈な菌が多い。この菌を直接腫瘍内に注射してガンを殺そうと言う、一見乱暴な研究だ。勿論このまま菌を注射すると毒素で宿主に影響がある。このため遺伝子操作で毒素を除いた細菌を使っている。普通の嫌気性菌は酸素のある状態では死んでしまう。ところがこのクロストリジウムは酸素の多い環境では芽胞を形成して生存することが出来る。注射しているのはこの芽胞だ。治療のアイデア次のようだ。芽胞を腫瘍内に注入すると、元々低酸素の腫瘍内でクロストリジウムは再活性化し増殖しだす。しかし酸素の多い正常組織になると自然に増殖を止める。こうして腫瘍内だけで細胞と競合し、あるいは炎症や自然免疫を引き起こすことで腫瘍を殺すと言う考えだ。かなり長い研究の歴史があるようで、最初は静脈投与のように全身投与を行っていたようだが、イヌのような大動物を使った治療実験で頓挫してしまっていた。そこで腫瘍内に直接萌芽を注入する方法に変え、小動物で効果を確かめた後、この論文ではペットとして飼われているイヌに自然発生した軟部組織の肉腫の治療に用いている。結果はまずまずで、16例の腫瘍に注入して、完全に腫瘍が縮退したのが3例、部分縮小が3例、病態が安定したのが5例で、全く効かなかったのが3例だった。これに励まされ、実際の患者さんへの治験が始まっているようだが、この論文では1例の平滑筋肉腫の患者さんの治療例について報告している。2006年8月に治療を始めて、腫瘍は縮小したままで、現在も軽作業は可能な状態を保っているようだ。また心配される副作用も対応可能なレベルでとどまっている。勿論一例の話で効果を判断するのは危険だが、期待を持てる結果だ。バイオプシーされた組織などよく見てみると、細菌と細胞が競合して細胞が死ぬよりは炎症や免疫反応の影響が大きいようだ。とすると、現在ガンの免疫増強治療として行われているCTLA4やPD1に対する抗体治療と組み合わせて転移がんに注入するなど、色々さじ加減も可能な治療に発展する可能性がある。先ずもう少し大きなスケールでの治験結果を見たい。

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