8月20日:円形脱毛症が本当に治る(Nature誌オンライン版掲載論文)
2014年8月20日
ストレスなどで急に一部、又は全身の毛が抜ける円形脱毛症は、自己免疫病だと考えられて来た。しかし決定的な治療はなく、これを反映して民間療法に近い様々な治療を提供するビジネスが世界中に存在している。患者さんは藁にもすがる気持ちで様々な治療を試しているのが現状だろう。しかし自己免疫病とわかっているなら、科学的合理性を持った治療法が開発されても良さそうだ。今日紹介するコロンビア大学からの論文はこの問題に明確な糸口をつけた研究で、ある意味で脱毛症に悩む患者さんには大きな朗報だろう。タイトルは「Alopecia areata is driven by cytotoxic T lymphocytes and is reversed by JAK inhibition(円形脱毛症は細胞障害性T細胞により引き起こされ、JAK分子阻害で治療できる)」で、Nature Medicineオンライン版に掲載されたところだ。研究ではマウスモデルを用いて、CD8とNKG2Dの両方の分子を表面に発現しているT細胞がこの病気の犯人細胞であることを突き止めている。即ちこの細胞をリンパ節から取り出してまだ脱毛のないマウスに投与すると、脱毛が始まる。犯人細胞がわかったところで、この細胞がどんな分子を分泌しているのかを調べ、インターフェロン、IL-2,IL-15などがこの症状を引き起こしているのではと当たりをつける。事実、IL-2やIL-15を抑制してやると脱毛が回復する。このマウスモデルの結果から、円形脱毛症の発症過程を、CD8,NKG2Dを発現したT細胞がインターフェロンを分泌し、毛根を細胞から守っているフェンスを破壊し、またIL15などの分泌を促進する。これにより障害性T細胞が毛根に集まり脱毛に至ると考えた。とすると、インターフェロンやIL2,IL15のシグナル伝達を止めれば脱毛を治療できると考えられる。幸いこのシグナルを遮断する薬が開発され、白血病治療に利用されている。早速効果を確かめるべく、この薬をマウスに投与、あるいは塗布した所、全例で完全な回復が見られた。最後に実際の患者さん3例を選び薬を服用してもらった所3−5ヶ月で完全に回復したと言ううれしい結果だ。実際論文には完全に頭髪が脱毛している患者さんが、正常化する過程の写真が示されており、素晴らしい効果だと言える。今後更に症例数を増やし治験が行われるだろう。また、マウスでは塗布で効果があるので、塗布薬も検討されるだろう。このように科学的治療法が開発されると、民間療法に近い多くのビジネスは消失するかもしれない。ただ一つ気がかりは、投与を止めても再発しないか、また副作用がないかと言う点だ。特にJAKを抑制すると一般的免疫反応も低下する。その意味では、局所塗布療法の開発を優先すべきだろう。是非早く伝えたい論文だ。
脱毛で苦痛な日々です。
なぜ皮膚科でこの薬出してくれないの?
抗がん剤として使われて薬です。内服の場合はやはりリスクとベネフィットを考える必要があります。