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8月26日:自律神経がガンを助ける(Science Translational Medicine8月20日号掲載論文)

2014年8月26日
胃の動きや胃液分泌を促しているのが迷走神経で、何かストレスを感じると胃にグッと来るのはこの神経の働きが、私たちの脳で脳の高次活動とつながっているせいだ。このため、ストレスで起こる胃・十二指腸潰瘍などでこの神経を切ってしまうという治療が行われることがある。ただ、迷走神経が胃の幹細胞やガン細胞を促進するなど想像だにしなかった。今日紹介するノルウェー科学技術大学と米国コロンビア大学からの論文は、この迷走神経が胃がんの発生や、その増殖を助けることを示した研究で、8月20日号のScience Translational Medicineに掲載された。面白い研究は当たり前と思っていることについて疑問を抱くところから始まる。胃がんの8割は胃の小湾部に発生するが、この研究はなぜこの差が生まれるのかという疑問から始まっている。著者等はこの原因として、小湾部から胃に入ってくる迷走神経密度が小湾部で高いためではないかと疑った。これを確かめるべく、マウスモデルで迷走神経と胃の連結を断って、胃がんの発生やガン細胞の増殖に対する効果を先ず調べている。予想は正しく、迷走神経支配が断たれると、発ガン率が低下し、また出来てしまったガンの増殖も遅くなる。更にガンの化学療法モデルで治療効果を調べる実験系でも迷走神経切除の効果は絶大で、マウスの生存率が大幅に延長する。臨床的にはこれで十分だが、次に著者等はなぜ迷走神経がガンの増殖を促進するかのメカニズムを追求し、迷走神経がムスカリン受容体を介して胃の上皮幹細胞を直接刺激し、幹細胞の増殖に必要なwntと呼ばれる増殖因子を分泌するようになり、幹細胞が自発的に増殖し始めることで、ガン化リスクが上がることを示している。これまで神経細胞が幹細胞を支えるニッチに働いて幹細胞の増殖を間接的に調整する可能性は示唆されていた。この研究で、神経が直接幹細胞に働きかけるルートが示されたことは、幹細胞研究から見ても面白い。ではヒトの胃がんでも同じことは起こっているのか?これを確かめるため、胃がんの組織を調べて、確かに増殖速度の高いガンほど周りに迷走神経が集まって来ていることを示している。ひょっとしたら、ガンの方も神経に働きかけて自分の増殖に都合のいい環境を作っているのかもしれない。更に、胃切除部に再発してくる胃がんの発生頻度を事後的に、迷走神経切除群と、非切除群で比べて、迷走神経切除群では小湾部のがんの再発が強く抑制されていることを示している。臨床で発生した疑問から、基礎研究、そして再度臨床研究に戻るという優れた疾患研究だ。更にムスカリン受容体を抑制するとガンの進行を抑制できるという治療可能性も示唆した点でも、トランスレーショナル研究の手本だろう。しかし、これが正しいとストレスがたまり、迷走神経が高まる状態は、ガンを助けていることになる。気をつけたい。

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