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9月12日:スターの力を借りて論文を宣伝する(Journal of Paleontology9月号掲載論文)

2014年9月12日
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今日は読んでいただくのを少しはばかる。世界のメディア各紙がこぞって一つの科学論文を紹介する事はそうない。しかし9月10日にはニューヨークタイムス、ワシントンポスト、デイリーメールなどがこぞって紹介した論文が今日紹介するウェークフォレスト大学とデューク大学からの論文でJournal of Paleontology9月号に掲載された。タイトルは「Anthracotheres from Wadi Moghra, early Miocene, Egypt(中新世代エジプトのWadi Moghraから出土するAnthrocotheres)」だ。Anthrocotheresはカバと同じ偶蹄類の絶滅哺乳動物で、この名前は最初フランスの炭坑で見つかった事からつけられた名前だそうで、石炭獣とでも訳せば良い。約2000万年前位に生息し、カバの先祖ではないかと研究が続けられているが、特にWadi Moghara(洞窟の谷)と呼ばれるエジプトの南部湿地地帯が多くの化石が出土する地域として発掘が続いている。しかし、この論文がどうして多くのメディアに報道される事になったのだろう?実は私も、ニューヨークタイムズで紹介していなかったらおそらく読む事はなかっただろう。ともかく読もうと心に決めて読み始めたが、しかし化石についての一般論文は結構読むのが大変だ、と言うより読む気にならない。計測や、これまでの化石との関係、標本番号など、専門家には大事だが、専門外の私には到底意味のない文字が並んでいる。思ったより写真も少ない。しかしサマリーと短いディスカッションを読むと、Moghra地区で出土するAnthrocotheresの様々な種を整理し、今回見つかった2種類と比べているようだ。とはいえそれぞれの系統関係などあまり議論がされておらず、極めて記述的でメカニズム、メカニズムとすぐ思う私にとっては不思議な論文だ。いずれにせよこの論文のハイライトは今回見つかった新しい絶滅種をjaggermeryx naidaと名付けた点にある。この種の特徴は下顎に開いた4つの神経を通す穴で、これは下唇の運動がかなり精緻に調節されていた事を思わせる。この発見から著者等はミックジャガーの唄っているときの大きな下唇や下顎の複雑な動きを思い出したようだ。ほ乳動物の進化にとっては勿論大事な発見だろうが、それにしてもミックジャガーを思いついてJaggermeryxと名前を付けなければメディアも紹介する事はなかっただろう。いずれにせよ、サイエンスコミュニケーションの難しさを思い知らされる論文だった。ただ、有名人の力を借りてなんとか自分の論文を注目させようとすることは別に珍しい事ではないようだ。同じニューヨークタイムズの記事によると、ミックジャガーは既に三葉虫の学名(Aegrotocatellus jaggeri)に使われているそうだ。他にも同じローリングストーンのキースリチャードも同じ三葉虫に名前を残している(Perirehaedulus richardsi)。果ては、最近乳がん遺伝子で騒がれたアンジェリーナジョリーはクモの学名に名を残しているようだ。(Aptostichus angelinajolieae) 物知りになったと言う意味では、今日はニューヨークタイムズの方がためになった。更に有名人の名がついた学名を調べたい人達には(http://abcsofanimalworld.blogspot.jp/2011/09/animals-named-after-famous-rock-stars.html)がお勧めサイトだ。

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