AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 10月6日:移植子宮による妊娠と出産(The Lanet10月5日号掲載論文)

10月6日:移植子宮による妊娠と出産(The Lanet10月5日号掲載論文)

2014年10月6日

既に新聞各紙でも報道されているようだが、今日は移植子宮から生まれた男児の話を紹介する。今年3月6日このホームページでスウェーデンのヨテボリ大学のチームによる子宮移植成功についての論文を紹介した。その時、移植子宮での妊娠、出産の報告を聞くのも時間の問題だと述べた。予想通りこの時子宮を移植された女性から生まれた子供についての報告が最新号のThe Lancet誌に掲載された。タイトルは「Livebirth after uterus transplantation(子宮移植後の出産)」だ。各紙のウェッブサイトには目を通してみたが、全紙、淡々とした短い記事だ。論文を自分で読んだわけではなさそうで、現地からのプレス発表を配信したニュースをそのまま掲載している感じの記事だ。判で押したように倫理的な議論が必要だと結んでいるは、配信ニュースに最初からあったのか、それとも日本のメディアのクセみたいな物なのだろうか?しかし論文を読むと、この研究がかなり準備周到に行われている事がわかるので、その点について紹介しておこう。先ずこのグループは10年以上動物実験を繰り返し、移植子宮で妊娠出産が可能である事を確信している。対象は卵子が作られているが、子宮切除、子宮内癒着、あるいはロキタンスキー症候群などの先天的子宮形成不全などを原因とする不妊の患者さんで、英国では12000人に達する。この場合これまでは我が国を含む多くの国で禁止されている代理母しか選択肢はなかった。今回報告された患者さんは、ロキタンスキー症候群の方で、膣形成不全があり、また腎臓も一つしかない。更に、プロトコルとして、子供が1−2人が生まれた後は、もう一度子宮切除してしまう事を決め、それを患者さんに納得してもらっている。子宮自体は生命に必要な器官ではなく、移植子宮を維持するために免疫抑制剤を使い続ける方が危険であることを考えての事だ。ドナーは、この家族と親しい友人、おそらくお母さんの友人だろう、61歳女性で既に2人の子供を持つ母親だ。この治療では生理がないため採卵も難しい。基本的には超音波診断を手がかりに、いつ採卵するかなどかなりの準備が行なわれている。この患者さんでは、移植後43日目から生理が始まっている。移植子宮はしっかりと機能する。しかしこのサイクルが正常である事、及び免疫抑制がしっかりできている事の確認が先ず大事だ。拒絶反応については、子宮頸部のバイオプシーを繰り返し妊娠中も確認する念の入れ様だ。他にもパピローマビールスが感染していない事まで確かめた後で、体外受精を行なった胚を移植している。自然受精も可能かもしれないが、体外受精で行ない移植された子宮の機能を調べる事を目的とする事を最初から決めて納得してもらっている。前にも述べたが、免疫抑制のためタクロリムス、イムラン、プレドニンを使用しているが、妊娠後も使用を続ける事を決めている。ただ、成長期だけは使用量を減量するが、ステージが進んだ後は元の量に戻している。胎児の成長の詳しい記録が行なわれており、免疫抑制剤が成長を阻害する事はないようだ。事実、多くの臓器移植を受けた患者さんが免疫抑制をしながら出産に成功している。おそらくこの患者さんでは高齢者の子宮が使われた事、さらに腎臓が一つしかない事などが重なり、妊娠中毒症様の症状が出ていたため、帝王切開で分娩を行ない、1775gの男児が生まれた。子供は正常に成長し、2週間で新生児ユニットを出ている。お母さんに至っては、出産後3日で退院している。これが実際の経過の概要だ。今後我が国でも実施される場合の基準となる様々な要素が盛り込まれた優れた臨床報告だと思う。報道も、これらの経過をふまえた上で、どこが我が国では倫理問題として議論すべきか明確な意見を持つべきだろう。その意味で、是非オリジナルの論文を読んで記事を書いて欲しいと思う。再生医療で形成させた膣移植について以前紹介したが、この症例からも今度は自然妊娠の報告がある様な気がする。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*