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10月28日:同一がん組織内の多様性(10月10日号Science誌掲載論文)

2014年10月28日

細胞が一回分裂すると、新しく出来た2個の細胞のゲノムは違っているのが普通だ。分裂時のDNA複製には低いが一定の不正確さがあり、これが生命の進化には必須の要素だ。同じように、がんが伸展し、治療に抵抗する細胞が進化するのも、がんのゲノムが分裂ごとに変化するからだ。実際、がんのゲノムやエクソームとして検出しているのは、多様ながん細胞の集まった集団としての平均値だ。ゲノムの大きさが30億塩基対もあるため、がん発生に重要な部位以外の突然変異が繰り返し見られる事はほとんどない。それでも同じがんの違う場所を取り出して調べると、がんが多様化している事が腎臓がんなどでわかっていた。このためがんの多様性と再発の関係を調べる研究が始まっている。今日紹介するMDアンダーソンがんセンターからの論文は、初期肺腺癌の手術組織の多様性を調べた研究で、10月10日号のScience誌に掲載された。タイトルは「Intratumor heterogeneity in localized lung adenocarcinomas delineated by multiregion sequencing (同一がんの複数の場所から採取したがんの配列決定により初期の肺腺癌の多様性が明らかになる)」だ。読んだ印象はScienceに掲載するほど質が高いか疑問に思ったが、がんの臨床には重要な結果だ。研究では、11例のステージIIAまでの肺腺癌で、通常検査では転移がないとして手術が行なわれた患者さんのがん組織の複数箇所から細胞を集め、全エクソーム(実際にタンパク質などへ翻訳される遺伝子部分で全ゲノムの1.5%程度)を高い精度で解読している。結果は明瞭で、全てのがん組織で元のがんから変異した数種類の集団が特定できる。肺腺癌では、多様化していても全て同じ起源へと元を辿れる事から、最初から多様ながんが発生するのではなく、先ずもとのがんが発生してそこから多様ながんが発生すると考えられる。即ち、先ずがん化で染色体の安定性が損なわれ、多様化が始まる事を示している。これほど初期から多様化していたら治療も打つ手がないのではと心配になるが、幸い75%程度の突然変異は全てのがん細胞共通に見られ、この研究で発見された、肺腺癌発生に関わる事の知られている14種類の遺伝子突然変異の内13種類は全てのがん細胞に存在する事から、多様化はしていても起源は同じで、薬剤に対する反応も同じだろうと予想できる。とはいっても、術後21ヶ月経過を見るうち再発した3例は、再発のなかった例と比べると明らかに多様化の程度が大きい。従って、初診時に多様化が著しい場合は再発予備軍としてより注意深い観察をする必要があるだろう。突然変異の種類についても解析している。明らかにタバコが原因と思われる突然変異は、確かに喫煙をやめても長く存在する事から、肺の中でゲノムに蓄積している事は明らかだ。この解析から肺の腺癌ではガン化までの変異と、がん化後の変異が明らかに違い、多様化はガン化後加速される。この加速時期にはAPOBECと呼ばれる分子が関わっている事もわかった。臨床的に重要な点は、初期がんで発見できれば、がん全体の性質を変える所までは多様化も進んでいない事だ。いずれにせよ、11例と言う少数の解析だけから結論を急ぐと大きな落とし穴があるかもしれない。しかし、がんは知れば知るほど対応の可能性も見える事ははっきりした。それにしても、アメリカやヨーロッパのがんゲノムへの取り組みは徹底している。それと比べると我が国のこの分野のシェアは低いと言わざるを得ない。心配している。

 


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