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11月2日:クリスパーおもちゃ箱。II遺伝子制御(10月23日号Cell誌掲載2論文)

2014年11月2日
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これまでCRISPR/Cas9の利用のほとんどは、Cas9のDNA切断能力を使った遺伝子編集だったが、ガイドRNAがあればCas9がゲノムの特定の場所に結合する性質を利用したそれ以外の様々な方法の開発が進んでいる。例えば、昨年12月26日、生きたまま細胞内の遺伝子を見る方法の開発について紹介した。しかし最も期待されるのが、特定の遺伝子の発現やエピジェネティックな状態を自由に調節するための利用だろう。今日紹介する10月23日号に掲載された2編の論文はカリフォルニア大学サンフランシスコ校の同じグループからの研究で一つのセットになっている。タイトルは「A protein-tagging system for signal amplification in gene expression and fluorescence imaging (蛋白標識システムを遺伝子発現と蛍光イメージングの増強に使う)」と「Genome-scale CRISPR-mediated control of gene repression and activation (CRISPRを全遺伝子レベルの発現抑制と活性化の調節に利用する)」だ。最初の論文では細胞質内で働く抗体の開発と、それが結合する短いペプチドを使ったタンパク質標識方法(SunTag法)について紹介している。遺伝子改変によりタンパク質に蛍光蛋白を融合させる方法は最早ルーチンの方法だが、さらに蛍光シグナルが強くなればと誰もが感じている。一つの分子を複数の蛍光分子で標識出来ればいいのだが、巨大な分子になると追跡したい分子の正常な機能が維持できなくなる。この問題を解決するために、タンパク質の機能に影響のない短いペプチドの繰り返しSunTagで標識しておいて、そのTagを細胞内で発現させた蛍光標識抗体で検出すると言う方法を開発したのが最初の研究だ。原理は簡単だが、抗体を生きた細胞質内で機能させることはそう簡単ではない。試行錯誤を繰り返し、ついに細胞内で特異的にSunTagに結合する抗体標識システムを完成させ、生きた細胞の中で単一分子を追跡できる技術に仕上げている。この技術をCas9と合体させて、遺伝子転写を活性化させる方法が次に紹介されている。Cas9にSunTagをつけて、ガイドRNAと発現させると標的遺伝子の近くにSunTagを寄せてくることが出来る。これを今述べた細胞質内で働く抗体と組み合わせば特定の遺伝子の核内での位置を検出することが出来る。ただ、この論文では蛍光蛋白の代わりに転写の開始を促進するVP64蛋白と抗体を結合させて、目的の遺伝子の転写を活性化する方法を開発した。即ち、ガイドRNAでCas9-SunTagを特定の遺伝子転写開始点に結合させ、抗体に結合したVP64で転写を誘導する方法の開発だ。結果として、この方法が期待通り使えることを確認して、次の論文に示された研究へと進んでいる。この研究では、細胞内のあらゆる遺伝子の転写を調節する新しい方法の開発に挑戦している。これまで網羅的に遺伝子を不活性化する方法としてshRNAなどが使われていたが、特異性の問題、そして活性化の方には使えないと言う限界があった。この論文では、転写を活性化するSunTag, Cas9-VP64システムと、転写を抑制するCas9ーKRABシステムを組み合わせいる。KRABは転写抑制因子で、Cas9と結合させると特定の遺伝子のみ転写を抑制出来ることがわかっている。開発にとって最も重要なのは、Cas9をガイドするRNAの選択だ。実際には、49種類の遺伝子について転写開始点前後1万塩基対についてガイドRNAを合成し、活性、抑制それぞれについて最適な場所をスクリーニングし、抑制の場合は転写開始点を含む領域、活性化の場合は少し離れた上流でガイドRNAを選べば良いことを特定した。この成功でこの研究は峠を超えたと言える。次に、全ての遺伝子について抑制、活性2種類づつガイドRNAを設計し、レンチビールスベクターを用いて、それぞれのガイドRNAが発現する細胞ライブラリー作成して、標的過程に関わる遺伝子の機能を網羅的に特定できるようにしている。要するに特定の遺伝子の発現がon/offになっている細胞を全遺伝子分作ったと考えていただければいい。詳細は割愛するが、この様な細胞があると、例えばガンが増える時どの分子が必要か、あるいはどの分子がそれを抑制するのかなどしらみつぶしに調べることが出来る。実際、この研究ではモデル系として、コレラ毒素とジフテリア毒素に関わる分子を網羅的に調べ、まだ特定できていなかった新しい分子を発見している。膨大な仕事で、これ以上詳しく紹介することは差し控えるが、とても印象的な仕事だった。今後ガン細胞やiPSなどにも導入され、様々な細胞内プロセスに必要な分子の同定が行なわれるだろう。これまで、網羅的に遺伝子機能を調べる方法が数多く試みられて来たが、大きな成功を収めた方法はないと思う。その点で、この方法はポテンシャルが高そうだ。この様な網羅的技術は大学や研究所だけでなく、創薬企業に重要な技術だ。もしiPS研究が国策なら、iPSと組み合わせたこの様なシステムを簡単に企業が利用できるようにすることも、iPS研究で助成を受けている研究者の使命だと思う。

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