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11月26日:いい匂いはどう認識されるのか(11月19日号Neuron誌掲載論文)

2014年11月26日

匂いの基本は、化学物質と嗅覚受容体の相互作用により誘導される細胞の電気的興奮だが、個々の嗅覚受容体は反応できる化学物質の特異性が厳格に決まっている。一方、私たちが匂いを感じる時は、様々な化学物質が複雑に混じり合った混合物を、一つの匂いとして特定している。例えばワイン、ウィスキー、日本酒とそれぞれを感じ分けている(少なくとも私は)。すなわち複数の嗅覚細胞の興奮を統合して一つの表象と対応させることが必要だ。この過程について研究したのが今日紹介するシカゴ、ノースウェスタン大学の論文で、11月19日号Neuron誌に掲載された。タイトルは「Configuration and elemental coding of natural odor mixture components in the human brain (自然に存在する匂い物質の混合物を人間の脳内で構造的かつ要素的コード化)」だ。さすがアメリカの研究で、ニオイ物質としてピーナツバターを選んでいる。まず、ピーナツバターの匂い成分をガスクロマトグラフィーと質量分析機で14種類の要素に分解している。もちろん他にも検出できない多くの要素があり、全部を要素化することは困難だ。これが自然の匂いを研究する難しさだ。この問題を克服するアイデアが面白い。全要素を突き止めて再構成するのは諦めて、この14要素とピーナツバターとして感じられる匂いの関係に絞って調べている。そのために、実験ではなんと被験者にピーナツバターを嫌という程食べさせて、もうピーナツバターは見たくないという気持ちが、各要素の認識にどう影響するか、自覚的評価とMRIによる脳内の活動状態を調べている。思わず笑いがこみ上げる実験だ。これを思いついた時点で実験は終わっていると言える。ピーナツバターが好きでも、やはり嫌になる程食べた後でまた匂いを嗅がされると、好感度は落ちる。この時脳内のどこで活動の変化が見られるかを調べると、OFC(眼窩前頭皮質)、AM(扁桃体)、AI(前部島)の3カ所で反応の低下がみられる。すなわちもう十分という意識に影響される部分が特定できた。次にピーナツバターを食べさせた後、個々の成分を別々に嗅がして、脳内の3領域で反応が低下するかどうかを調べている。さて結果だが、12の要素のうち、4要素で自覚的好感度が落ち、これと対応して、4要素を嗅いだ時のOFC、AMの反応も低下する。しかし残りのほとんどの要素はPBを食べ過ぎた影響を受けないという、曖昧なものだ。結論も、脳は個別の匂い要素に対応しつつ、全要素を構造化して認識していると明快でない。しかし私も結論がそう簡単に出るとは思はない。ピーナツバターをいやになる程食べさせたというアイデアだけで十分だ。読んで思わず笑いがこみ上げる論文など、そうお目にかかるものではない。今後に期待しよう。


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