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12月1日:遺伝子変化と生活習慣(11月27日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2014年12月1日
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これまでなんども紹介してきたように、ガンが発生するためには、ガン特有の性質を発揮させるための遺伝子突然変異が必要だ。だからと言ってガンを単純に遺伝病と考えてはいけない。体の細胞に突然変異が蓄積する大きな要因は生活習慣だ。もっともわかりやすいのがタバコで、喫煙者の細胞には多くの遺伝子変異が蓄積していることがわかっている。他にも肥満とガンの関係などが統計的に示されており、このような解析からひょっとしたら突然変異の起こりやすい生活習慣を特定できるのではと期待されている。遺伝子変異と生活習慣との関係を探るためには、まだガンの発生していない集団を経時的に追跡し、遺伝子突然変異が発生する過程を追跡する必要がある。コホート研究と、ゲノム研究の融合だ。今日紹介するハーバード大学医学部からの論文は、一般集団を追跡する22コホート研究から、血液細胞のエクソーム(遺伝子のうちタンパク質に翻訳される全ての部分)の解読が終わった17000人あまりについて、ガンに関係することが明らかな突然変異を調べている。タイトルは、「Age related clonal hematopoiesis associated with adverse outcomes (有害な結果と関連する高齢者血液のクローン性増殖)」で、11月27日号のThe New England Journal of Medicineに報告された。いずれにせよ1万7千人ものエクソームが解析されていることに驚く。高齢者になるとガン化を引き起こす突然変異が、血液細胞中に見つかるようになるという結果は、11月11日このホームページで紹介した論文と同じだ。母数が多い分さらに明確な結果になっている。まず40歳以前ではほとんど突然変異は検出できない。ところが60−69歳では5.6%、70−79歳では9.5%、80−89歳では11.5%、90歳以上では実に18.4%の人で末梢血にガン化に関わることがわかっている突然変異を検出できる。末梢血細胞は多くの幹細胞により生産される血液細胞の総和と言えるため、変異が見つかるということは、突然変異の結果増殖力が上昇し、クローン性増殖を起こした血液クローンが存在することを示している。幸い問題になる突然変異の数は742例中693例で1個だけなのですぐにガンを心配する必要はない。おそらく以前紹介した115歳の方の血液が2種類のクローンしかなかったというのも、骨髄がクローン性増殖を起こした細胞で占められた後でも、正常血液を作り続ける能力が十分あることを示している。さて、変異が起こっている遺伝子のトップ3は、高齢者に多い骨髄異形成症候群の原因遺伝子と考えられている、DNMT3a.Tet2,Asxl1などDNAのメチル化を調節する遺伝子だ。この結果も、高齢になると骨髄異形成症候群が増加するといる事実と合致する。また、突然変異の原因となった塩基変換の種類もほとんどが、老化による突然変異の特徴を有している。集団コホート研究では、白血病の発生と突然変異の関係を調べることもできる。予想通り、突然変異があると確かに白血病発症確率は上がる。とはいえ白血病の発症する絶対的確率は突然変異があるからといって期待したほどは高くなく、一部の細胞がクローン性増殖を起こし、ガンの突然変異を持っているからといってすぐ心配する必要はなさそうだ。さて、この研究の面白いのはこれからだ。突然変異の存在と、その後の生存をプロットすると、血液の突然変異があると余命が明らかに短いことがわかる。ただ、死因を調べてみると血液疾患の死亡率が上がって余命が短くなったわけではなく、死亡率上昇の原因のほとんどは心血管疾患だ。特に、突然変異があって、赤血球の大きさが大きい集団の死亡率が高い。赤血球の大きさが上昇することは心血管病のリスクファクターだが、これだけでは説明できないレベルの死亡率上昇だ。示された結果はこれだけで、論文の結論としては、血液細胞の遺伝子突然変異を起こしやすい人は、心血管病で亡くなるリスクが高いと述べられているだけだ。ここからは私の想像だが、高齢になって血液に突然変異が起こりやすくなる特定の生活習慣があるような気がする。もしそうなら、その習慣を突き止めることの意義は大きい。論文を見ると、106人の70歳以上の突然変異を持つ集団について、全員が死亡するまで200ヶ月に渡って追跡した記録があるようだ。詳しい死亡原因と、他の検査データとの相関を是非報告してほしい。これまでなんどもガンと生活習慣が語られてきた。ほとんどは統計学的解析結果に基づいている。しかし、これからは疫学から得られる結果の背景にあるメカニズムを理解することができるのではと期待している。

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