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12月6日:胎児期の飢餓の長期にわたる深刻な影響(11月26日号 Nature Communications掲載論文)

2014年12月6日

世界的にも有名なコホート研究の一つにオランダ飢餓研究(Dutch Famine Study: http://www.hongerwinter.nl/index.php?id=31&language=EN)がある。我が国の被爆者の方のコホート研究と同じで、第2次世界大戦中多くの人が遭遇した出来事の影響を現在に至るまで長期に追跡している研究だ。名前の通り戦時中の飢餓の影響を追跡しているのだが、このコホートはドイツ軍の経済封鎖と、厳しい冬のために極度の低栄養状態を経験した妊婦から生まれた子供が対象だ。この封鎖期間中のカロリー摂取は1000kcalを切り、平均660kcalという悲惨なものだったらしい。この研究から、統合失調症の罹患率と、肥満、糖尿を含む様々な代謝疾患の頻度が、胎生期の飢餓により上昇することがすでに報告されている。これらの影響は、遺伝子そのものではなく、遺伝子の発現に関わる染色体構造の調節、すなわちエピジェネティック状態の変化によると考えられている。今日紹介するオランダ・ライデン大学分子疫学研究所からの論文は、これらの症状の背景にあるエピジェネティックな変化を調べた研究で11月26日号のNature Communicationに掲載された。タイトルは「DNA methylation signature link prenatall famine exposure to growth and metabolism(DNAメチル化の特徴から胎生期の飢餓と成長・代謝異常の関連を相関させる)」だ。研究ではまず戦後すでに1945年2月から1946年3月に生まれた胎児期に飢餓を経験した48人を選び、血液細胞からDNAを採取、RRBSと呼ばれる方法でゲノムの一部のメチル化状態を調べ、飢餓経験者共有におこるメチル化異常を示す遺伝子を探索している。詳細を割愛して以下に結果を列挙する。1)選び出された181遺伝子は胎児発生や臓器形成に関わる遺伝子が多かった、2)遺伝子領域のうちgene bodyと呼ばれる部位の変化が大きい、3)メチル化が上昇する領域の方が低下する領域より多い、4)変化がはっきりしている6遺伝子でさらに多くの被験者について調べると、1945年4月以前に妊娠した子供に異常が顕著で、それ以降ではコントロールと変わらなかった。すなわち、妊娠初期に飢餓を経験した場合に長期間続くメチル化異常が起こる。5)これら遺伝子のメチル化状態とLDLコレステロールや誕生時の体重に相関が見られた。6)これら遺伝子のメチル化部位は、動物の飢餓実験では全く発見されていなかった。まとめると、妊娠初期に飢餓を経験した子供では、発生時に重要な働きをする遺伝子にメチル化異常がおこり、それが60年以上維持され、様々な体質変化や病気の原因になるという結果だ。今回リストされた遺伝子について、さらに大規模な研究が行われていくと期待される。また、現在でもダイエットなどで一種の飢餓状態を経験する胎児は多い。この子供達を検査するときの指標として大きな貢献が期待できる。しかし、1回の飢餓の結果がこれほど長期に維持されるのを目の当たりにすると、戦争の悲惨さを思い知る。それでも現実から目をそらさず、この機会をとらえて新しい発見を続けてきたオランダ飢餓研究には敬意を払う。同じように我が国から、被爆者の方々のゲノム研究、エピゲノム研究が数多く発表され、世界に貢献することを願っている。


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