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12月22日:エボラ治療の症例報告(12月19日号The Lancet掲載論文)

2014年12月22日

エボラ出血熱という名前が頭にあるため、進行するとあらゆる粘膜から出血がおこり死に至るという説明をなんとなく納得してしまっていた。実際の患者さんの実態を知らないことによる結果だが、専門家ならともかく、私自身もちろん実際の患者さんに触れることはないし、また症例報告を目にすることもそうない。その意味で、今日紹介するフランクフルト大学医学部からの論文は、集中治療に成功した患者さんの症例報告で、私自身にとっても何十年ぶりかで症例報告を読む機会になった。治療過程の緊迫感が伝わってくる報告で、非謹慎とは知りながらもスリリングな読み物だと感心した。論文のタイトルは「Severe Ebola virus disease with vascular leakage and multiorgan failure: treatment of patient in intensive care(血管漏出と多臓器不全の重症エボラ出血熱の症例:集中治療の報告)」だ。患者さんはウガンダ人の医師で、シエラレオーネでエボラ治療センターの責任者として奮闘していた。発熱と下痢に見舞われ、当然エボラ感染を疑い検査が陽性と出た。医師であることから、感染症にも効果があると言われていた抗不整脈剤アミオダロンと抗生物質セフトリアゾンを自分の判断で服用していたが改善せず、発症後6日目に集中治療のため飛行機でフランクフルト大学病院に運ばれてきた。周知のように2次感染を防ぐために最も厳格なP4レベルの隔離が行われる。治療にあたっても手袋を3重に装着しており、脈すら触診ができない状況での治療だ。このようなP4レベル隔離で、症状に対応して集中治療が可能かがこの研究の重要なテーマだ。しかし重症化したとして運ばれてきたときの血液データは、肝機能障害以外はざっと見たところ以外に正常だ。一方、この患者さんの肺機能は低下の一方で、フランクフルトに来たときは起座過呼吸状態で、マスクから3Lの酸素を吸入している。レントゲンや、気管支挿入、心臓モニターのためのPiCCOカテーテル留置が行われるが、一つ一つ感染拡大予防のための様々な注意が必要で、詳しく書かれており、全て参考になる。これらの検査から、最も深刻な症状が血管漏出による肺水腫と、腎不全と診断し、その治療に集中する。ここで使われたのがFX06と呼ばれるオーストリアの企業が開発したフィブリン製剤で血管からの漏出を止める働きが期待される薬剤で11日目から投与が始まった。一方日本で開発されたRNAウィルスRNAポリメレース阻害剤は、胃腸症状が強く2日間服用できただけだったようだ。腎不全に対しては、透析療法が行われている。血液循環動態が安定したのち1回、ウィルスを吸着する膜を使った血液ろ過が行われているが、臨床評価としてあまり効果がなかったと判断している。他にも一般感染に対する抗生剤を投与しており、副作用を考えながらも考えられるあらゆる手段を講じたと言える。患者さんは13日目から回復に向かい、最終的にエボラに対する抗体が作られることで病気が収束している。結局、集中的な対症療法を行えば最悪期を乗り越えることが可能であるという結果だ。この症例報告がなぜLancetに掲載されたかを考えると、11目からFX06を投与したことで、確かに血管漏出が止まりはじめ、13日目から症状が快方に向かったからだろう。緊急状況で一定の安全性があるならおそらくこの論文を見た医師は使用すると思う。とはいえ、ではこの治療が決定打になったかというと、この報告からだけで結論はできないだろう。この論文にも書かれているように、ライプチヒに送られた患者さんはFX06を投与されたが、残念ながら死亡している。この薬もやはりアフリカで治験をしっかり行うしかないように思う。さらにこの報告を読むと、まずアフリカでこの報告にあるのと同じような集中的治療を実施するのは不可能だろう。したがって、より多くの人に使える治療の開発が急務だ。ただ、治療の対象はウィウルスだけでなく、結果起こってくる多くの症状に対する治療法の開発も、この疾患の場合は重要であることがよくわかった。いずれにせよ、今回の治療で一人の強力な戦士がエボラとの戦いに新たに加わったことは間違いない。


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