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1月2日:男はなぜ争いを好むのか?(アメリカアカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2015年1月2日

年末年始ということで「始まり」に関する、少し毛色の変わった論文を探していると、なぜかアメリカアカデミー紀要が続いてしまった。実際分野を限定しないアメリカアカデミー紀要やプロスワンには、毛色の変わった論文が多い。年末年始だけですでに、酒好きの起源、核酸塩基の起源、そして今日紹介する争いを好む心の起源についての論文を見つけることができることから、本当に多様な研究が行われていることがよくわかる。

 さて私自身は「悲しき熱帯」以外読んだことはないが、レビ・シュトロースに代表される私たち自身の心のルーツを未開の部族の風習や行動に探ろうとする文化人類学は、若者を引きつけるロマン溢れた学問分野だ。ただ、本として読むのは面白いが、科学として見始めると、研究者の仮説や憶測がどうしても表に出てしまっている印象を受ける。今日紹介するハーバード大学Peabody博物館からの論文は、アフリカのある部族で、なぜ命が懸かっていても男は戦いを続けるのかについて調べた研究で、アメリカアカデミー紀要オンライン版に掲載されている。タイトルは「Warfare and reproductive success in a tribal population(ある部族に見られた戦いと生殖上の成功)」だ。研究では、今も周りの部族と大小様々な戦いを続けているアフリカのNyangatom部族の男120人の戦歴と家族構成を調べ、私たちが持っている戦いの本能の起源を探ろうとしている。ただはっきり言って、慣れない分野で読みにくいし、素人から見ても憶測の多い論文という印象を持った。さてこの部族だが、主に家畜を盗むために今も周りの集落や部族と戦いを続けている。普通は数人で夜忍び込んで家畜泥棒を行う形態をとるが、時によっては100人単位の数が参加する戦争を行うようだ。こう聞くと普通はのどかな弓矢の儀式的戦いを思い起こすが、1980年以降はなんと自動小銃が導入されているようで、完全な命のやりとりになる。この部族の財産はもちろん家畜で、結婚するためには30頭ほどの家畜を男が相手の親に送る必要がある。すなわち結婚は財産が必要であるため遅く、女性は初経後数年でほとんど結婚するのに対し、男は20代後半から30代まで待つ必要がある。また、財産が多いということは複数の妻を持つことにつながる。では、家畜をめぐる命のやり取りは結婚のためかと調べると、盗みや戦いで勝ち取った家畜のほとんどが家長の財産になり、それを自分で結婚の貢物として使うことはない。実際、若者で戦いに参加して成功しても、ほとんど配偶者や子供の数につながっていない。一方若者の戦利品も自分の財産になるため、年長者や家長はまず戦いに参加しない。いろいろ調べたあげく、配偶者や子供の数と相関が認められたのが、年長者の過去の戦いの成功だけという結果になってしまった。これを説明する様々な可能性を考察した後、常識な結論を提案して終わっている。すなわち、若い時の戦いで戦利品を家長に贈ることで、後で権利を主張できる。また、家長の財産が増えると、女兄弟が増え、結婚の際の貢物も増え、将来相続できる財産が増えるという結論だ。しかし論文には戦いで命を落とすリスク確率、高い戦績をあげている年長者の体力、あるいは村に存在する銃の数などは全く示されていない。論文としてはかなり不完全な印象が拭えないし、読み物としてもレビ・シュトロースや、我が国で言えば宮本常一の面白さはない。現在ゲノム解読により歴史学が変わろうとしているように、おそらく文化人類学もゲノムにより大きく変わると思う。とすると、行動の記述がもっと精緻にならないと、新しい科学として生まれ変わることは難しいだろう。ただ、一つだけこの論文を読んでホッとしたのは、100人規模の戦争が起こる場合も、参加は自由で、村のために全員が動員されることがないことだ。実際、国家のために命を差し出させる徴兵制は近代以降はともかく、人類にとっては決して当たり前ではない。戦いを強制しない社会が私たち本来の本能であってほしいと思う。とはいえ、自由参加でも命のやり取りに出かけるとは、やはり男のゲノムに戦いの遺伝子がありそうだ。


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