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2月7日:WHIM症候群(Cellオンライン版掲載論文)

2015年2月7日

現役時の仕事の関係で、異常の原因になる分子CXCR4については普通の血液学者よりは熟知しているのに、この遺伝子が突然変異を起こして起こる病気WHIM症候群が存在することは全く知らなかった。今日紹介する米国NIHからの論文は、経過観察中に病気が自然に治ったWHIM症候群の患者さんが治ったメカニズムを解析した臨床研究で、Cellオンライン版に掲載された。タイトルは「Chromothriptic cure of WHIM syndrome(クロモスリプシスによるWHIM症候群の治癒)」だ。まずWHIM症候群から説明しよう。WHIMとはその主症状、Wart, hypogammaglobulinemia, infections and myelokathesis(いぼ、低ガンマグロブリン血症、感染症、骨髄性白血球貯留)の頭文字をとって名前がつけられた病気で、調べてみると、2003年、CXCR4遺伝子の優勢突然変異によってWHIM症候群が起こっていることが報告されていたようだ。当時は私の研究室でもまだCXCR4について研究を続けていた時で、全くこの論文に気づいていなかったのは恥じ入る。CXCR4は京大の長澤さんが初めて見つけたケモカイン受容体で、長澤さんによってこの分子が骨髄の血液幹細胞やB前駆細胞の増殖、移動を調節する分子であることが示された。WHIM症候群で血液細胞が骨髄に貯留するのは、CXCR4の活性が強くなり、血液が骨髄から移動しにくくなるためで、長澤さんの研究結果を裏付けている。次にクロモスプリシスだが、突然起こる染色体の大きな崩壊と再構成で、試験官内で増殖するガン細胞で初めて観察されたが、全ゲノムレベルの解析が行われるようになり、これによる様々な病気が報告されるようになっている。さて予習はこのぐらいにして研究を見てみよう。この研究は、すでに様々な雑誌に報告され、生まれた2人の娘さんも同じようにWHIM症候群にかかっている遺伝性のWHIM症候群の女性の症状が、35歳ぐらいから自然に改善し始め、50歳ぐらいからほぼ完治したという観察から始まっている。20代には何度も感染を起こして入院を繰り返し、身体中にパピローマビールスによるイボが出ていた患者さんが、30を越した頃から全く感染を起こさなくなり、その後全く病院の世話にならなくなった。宗教なら奇跡と大騒ぎするのだろう。しかし、この患者さんについては科学的に自然治癒のメカニズムについて様々な可能性を追求した結果、患者さんの血液が、リンパ球は異常だが、他の系列が正常化した一種の正常細胞と異常細胞のキメラ状態になっていることが分かった。さらに正常化した白血球ではCXCR4遺伝子突然変異が消えており、この遺伝子が存在する第2染色体が短くなっていることを発見した。即ち、大きな染色体変異により突然変異型のCXCR4遺伝子を失った細胞が出現し、この細胞が異常血液幹細胞を徐々に置き換えた結果、白血球の骨髄貯留などの症状が治ったことが明らかになった。この大きな染色体変異の原因をゲノム解析で調べた結果、第2染色体がいわゆるクロモスプリシスにより崩壊、再構成を経たことでCXCR4を含む多くの遺伝子が失われ、この結果クロモスプリシスを起こした血液幹細胞が骨髄では優勢になり、一見病気が治った状態に至ったことを示している。著者らは、CXCR4遺伝子の量が半分になる方が、骨髄に居座って血液を造る能力が高いのではと仮説を立て、マウスを用いてそれを証明している。すなわち、患者さんで突然変異遺伝子が失われるとともに、CXCR4の量が半分になり、骨髄に居座る力が高まった結果、突然変異細胞が骨髄から駆逐され、治癒が起こったと考えられる。したがって、他の患者さんの骨髄細胞の突然変異を例えばクリスパーを用いた遺伝子操作で除去すれば、患者さんを完治できる可能性が生まれた。一方、今回報告された患者さんではクロモスプリシスの結果、様々な遺伝子が同時に失われリンパ球が作れない。これほど大きな変化が起こると、今後ガンなど他の問題が生まれる心配もある。今後の経過観察からさらに面白い話が聞ける可能性がある。リンパ組織形成に関わるこの分子の役割を研究してきた経験から言うと、この論文の解析はまだ不十分だ。リンパ球の状態を見ると、他の検査もしっかりやれば、この分子のさらなる重要性が明らかになるような気がする。不謹慎だが、人間の病気の奥の深さを思い知る論文だった。


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