AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 2月8日:言語と発語運動能力(米国アカデミー紀要掲載論文)

2月8日:言語と発語運動能力(米国アカデミー紀要掲載論文)

2015年2月8日

8月に初めてクロアチアに行ったが、母音の多い日本語を話す私たちには発音しにくい地名が多かった。もともとクロアチアも、Hrvatska共和国だし、大観光地Dubrovnikを発音する時はいつも口ごもった。一つの単語に子音しかないともっと困る。私の知り合いのシンガポール人の研究者にHuk Hui Ngがいるが、これまでファーストネームのHukとしか呼んだことはない。Ngをどう発音していいかわからないからだ。今日紹介するボストン・ノースイースタン大学の論文は、誰もが感じる子音が続く単語の発音の難しさが、単語の認識に唇のシミュレーションが必要であることに起因する身体的問題なのか、言葉そのものが持つ抽象的な問題なのかを調べた研究で、米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Role of the motor system in language knowledge(言語知識における運動システムの役割)」だ。言語のように人間特有の高次脳機能は、まずどんな現象にも疑問を感じ、それに対する実験を構想することが科学の「いろは」であることがわかる。研究で扱われたのは、同じ文字が使われていても、並ぶ順序で認識しやすさが異なるのはなぜかという問題だ。具体例がないとわかりにくいだろう。例えばblogは今や皆が使う単語だが、lbogという単語は今も存在しない。これを説明する最も有力仮説として「言語認識時に私たちは頭の中で口に出すというシミュレーションをしており、この結果発音しにくい単語が自然と除外される」という説が存在した。これを確かめるべく、このグループはblif>bnif>bdif>lbifの4単語(これは全て1音節単語)を聞かせて、音節数を判断させた時の正解率を調べている。例えば私のような日本人は、lbifはどうしてもlu-bi-fuと2音節で発音してしまう。間違う確率は直感と同じでlbif, bdif, bnif, blifの順だ。実験はここからで、音を聞かせて判断する前に、唇を動かす脳領域に電磁波をあてて運動を阻害する。もちろん、これによって発語が抑制されることも確認している。そして、電磁波により発語運動システムを阻害することで正解率が低下するかどうかを調べている。全く予想に反して、電磁波が影響するのは認識しやすいblifを聞いた時で、lbifについての判断には影響がない。次に、聞き取りやすいmlifについて、さらに聞き取りやすい2音節のmelifから順にeの音を人工的に音節を消していって1音節のmlifに至る6段階の中間的音節を聞かせて調べると、電磁波の影響はやはり1音節に近いほど強く見られる。最後に、blifからlbifまでの音を聞かせて唇を動かす脳領域の活性を調べると、期待通り聞き取りやすい単語の方が唇運動領域の活性化と関係しているという結果だ。これまでの通説には一石を投じているが、ではなぜこのような階層性が生まれるかについての明快な答えはまだ出ていない。はっきりしたのは、分かりにくい単語だからといって音に出そうとするシミュレーションはしていないようだ。しかし、普通に聞いている一音節単語は、聞いた時にすでに唇を動かそうとしているらしい。いろいろ議論はしているが、私から見ると目からウロコというわけにはいかないようだ。言語の異なる対象者で調べるべきだろう。今回の対象である英国人は、寒いところで口を開かず唇音を多用することに慣れている。日本人で調べてみたい。しかし、当たり前と思っていることを疑問に思って、実験を構想し、なんとかそれを実現できる時代が来たことは確かだ。言語解明に向け「若者よ大志を抱け」。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*