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2月21日:個人ゲノムは社会の財産(Nature Communicationsオンライン版掲載論文)

2015年2月21日

我が国でもようやく個人ゲノム検査(DTC)が提供されるようになってきた。しかし、米国ではすでに10年近い歴史があり、最も検査数の多い23&meにはなんと80万人の検査データが集まっている。DTCはdirect to consumerと呼ばれるように、検査を受ける個人に向けられたものだ。このため、当然のこととして個人の役に立つというニュアンスが込められている。実際、あなたの病気のリスクを予測しますというのが、DTC販売のうたい文句だ。しかし、例えば私の年になると、遺伝的リスクを推定することの意味はほとんどなくなる。それでも、私はDTCは重要だと思っており、また講演などを通じて推進意見を述べてきた。私自身、もう少し安くなれば全ゲノム配列も調べたいと思っている。この最大の理由は、私のゲノムは38億年の生命の歴史に現れた一回きりのユニークなゲノムであり、私の死後もPCの中にしまっておける形で存在している。このゲノムと、個人に関わる他の情報がまとまったログは、将来人間の様々な性質とゲノムとを統合するための重要なデータになる。私にとって、DTCは個人の役に立つから調べるのではなく、将来の人類文明に小さな貢献をするための情報だ。今日紹介するアルバート・アインシュタイン大学と23&meからの論文は、DTCデータが社会の財産として活用できることを示す研究で、Nature Communcationsオンライン版に紹介されている。タイトルは「Escape from crossover interference increases with maternal age(交叉阻害からの逸脱は母親の年齢とともに増加する)」だ。23&meが協力した論文だ。もちろんデータの由来は全て23&meのSNPアレーによる遺伝子検査を購入した人たちだ。研究で調べているのは、精子や卵子形成時の組み替えの頻度だ。「え?どうしてSNPアレーのデータから染色体同士の組み替えがわかるの?」と訝しく思われるかもしれない。もちろんこのためには、親と子のデータを比べることが必要だ。23&meやdeCodeのように50万以上のSNPが調べられていると、それぞれのSNPがリンクする頻度や、特定のハプロタイプのマーカーとなるタグSNPなどを合わせて計算すると、かなり正確にそれぞれのSNPがどの染色体から来たかを推定できる。この論文では、23&meデータに存在する4000家族を抽出して、2002年に報告されたアルゴリズムを使って組み替え頻度を調べている。まず驚くのは、4000家族が両親と子供が一緒にゲノム解析を受けていることだ。この中の3000は両親と2人の子供、500が3人の子供、80人が4人の子供の組み合わせだ。最終的に65万近い染色体交叉を特定している。今回の結果から、女性で平均50近く、男性で25近くの組み替えが1ゲノムあたりに存在する。今回の研究のハイライトは、母親の染色体では年齢とともに組み替え頻度が上昇するが、このような上昇は父親の染色体には見られないことだ。こうして計算される組み替え頻度は、組み替え場所を決めているPRDM9のSNPと相関しており、この結果PRDM9の特定のSNPを持つアフリカ系の人では組み替えが低い。モデル解析から、組み替え率の上昇する原因を、交叉を正確に行うための抑制性メカニズムが、年齢とともに卵子では働かなくなるためだと推定している。結果はこれだけだが、これだけ多数の家族を、おそらく大きなコストをかけずに調べられたことがこの研究の最も重要な点だ。実際、2010年にはアイスランド人の家族についての同じような研究がDeCode社から報告されている。これまでのように、研究を計画してから対象を集めるのではなく、目的を定めないデータが存在して、そこに含まれる様々な意味を様々な角度から抽出するという新しい方向性が定着してきた気がする。ぜひDTCを社会の財産として育てる視点が必要だと思う。


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